メロディーを思い付くのはたいてい、通勤の自転車だ。家に帰るまで忘れなければ、作曲に取り掛かる。“楽器”はMac付属の「GarageBand」と「初音ミク」、iPhoneアプリ。曲作りは、MacとiPhoneがあれば十分だ。
家族が集まるリビングで、曲作りに取り掛かる。「ここの発音、変じゃない?」「この音、何かに似てるね」――iMacのスピーカーから流れる曲をネタに、息子や妻との会話も弾む。
早ければ半日ほどで1曲が完成。ネットで探した画像と組み合わせ、動画にして「ニコニコ動画」に投稿する。投稿後はしばらくページを開きっぱなし。うれしいコメントにニヤリとし、厳しいコメントにはへこむ。反響が欲しくて、また作ろうと思う。
会社員で、中学生と高校生、大学生の3人の息子を持つ父親。松尾公也さん(49)はニコ動に初音ミク楽曲を投稿している無数の「P」(初音ミクの“プロデューサー”)の1人だ。
中学のころからバンドでキーボードやギターを弾いていた。コンピュータで音楽を作り始めたのは大学時代、YMOブームのころ。シャープの8ビットPC「MZ80 K2E」に、KORGのシンセサイザー「MS-20」とAMDEKのデジタルシーケンサー「CMU-800」をつなぎ、ビートルズやレッド・ツェッペリンの曲を打ち込んだ。
社会人になり、MIDIインタフェースが普及し始めると、PC-9801とMIDI音源「MT-32」、DTM(デスクトップミュージック)パッケージの「ミュージくん」を買った。PC-98の640Kバイトメモリでは足りないと、Macを使い始めた。
音楽を発表する場は「なかった」。当時は、作った曲も家族や友人に聞いてもらうか、たまにライブで演奏するぐらい。歌も入れてみたかったが、自分の声を吹き込むのも恥ずかしいし、いい音で録音するのはスタジオを借りる必要もあって大変。曲作りは趣味だから、そこまでやるつもりもなかった。
思い出したように作ったり、また作らなくなったり――そんな日々は、初音ミクとニコ動で一変した。
「これはヤバい」――07年夏、ネットで公開された初音ミクのサンプル音声を聞いて「愕然とした」。PC1台で、曲に自然な歌声を載せられる。あきらめていた“歌モノ”を作ることができる。DTM熱が再燃した。
発売日に近所のヤマダ電機に走ったが、当時はDTMが下火で「ソフト売場自体がなかった」。会社の近くのビックカメラでやっと見つけて購入した。
ミクはWinodows用だが、松尾さんの“楽器”はMac。Macの仮想化ソフト「Parallels」や「CrossOver Mac」を使ってミクを走らせる。伴奏をMacの付属ソフト「GarageBand」で作れば、歌入れから伴奏までMac1台でOK。iPhoneの楽器アプリで伴奏を演奏することもある。
松尾さんの曲作りのプロセスを教えてもらった。作曲といえばピアノを前に五線紙を鉛筆で埋めていく古典的な作業を思い浮かべていた記者だが、見せてもらった作業はそれとはまるで違い、初心者の記者にもできそうな気がした。
まずメロディーから作り始める。通勤の自転車で思いついたフレーズは、忘れないよう携帯電話に録音することもあるが、そのまま忘れてしまうことも多いという。
メロディーを覚えていれば、週末など暇な時間にリビングのMacに向かい、曲作りに取り掛かる。歌ものの場合はメロディーと歌詞を「初音ミク」で入力し、GarageBandで作った伴奏と合わせる。GarageBandでメロディーも作る場合は、キーとテンポを設定し、ピアノなど好みの楽器を選んで打ち込んでいく。
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