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未来のテレビは? 久夛良木氏「Eee PC化する」 麻倉氏「壁になる」(1/2 ページ)

» 2009年03月23日 09時28分 公開
[岡田有花,ITmedia]
画像 左から遠藤氏、久夛良木氏、麻倉氏

 「みんなが想像するような“未来のテレビ”は、近い将来に実現できる」――プレイステーション生みの親で、ソニー・コンピュータエンタテインメント名誉会長の久夛良木健氏は、3月20日に開かれた「テレビの未来」セミナーでこう語った。

 セミナーは、アスキー総合研究所とワイアードビジョン、慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科が主催。久夛良木氏とAV評論家の麻倉怜士氏をゲストに招き、アスキー総研の遠藤諭所長が司会した。

 久夛良木氏と麻倉氏はともにAVマニアでテレビ好き。久夛良木家のリビングには70インチの「クオリア」があるほか、200インチサイズを含め7台のプロジェクターがあるという。麻倉氏は、そんな久夛良木氏の「コンシェルジュ」。おすすめのBlu-ray Discなどを紹介しているそうだ。

 そんな2人が夢見る未来のテレビとは――久夛良木氏は、膨大な映像コンテンツがネット上のサーバに蓄積され、自由に検索・閲覧できる時代がすぐそこまで来ていると予言。麻倉氏は、テレビが壁に埋めこまれて“消失”し、欲しい映像が欲しいサイズでいつでも手に入る世界が理想と語る。

「テレビは番組からエクスペリエンスになる」と久夛良木氏

画像 「最近暇なので、週に1回は映画館に行く」という久夛良木氏。角川グループホールディングス(GHD)の社外取締役を務めている関係で「涼宮ハルヒの憂鬱」も見たそうだ

 2人とも、“全録”レコーダー「Spider zero」のヘビーユーザーだ。Spiderはアナログチューナーを8基搭載し、受信する放送をすべて録画可能。“エアチェック”することなく、俳優や番組名で検索するだけで見たい番組にたどりつける。

 「Spiderの導入は大衝撃。家中のレコーダーが全部いらなくなった」と久夛良木氏は興奮気味に語る。検索して見たい番組を楽しむという体験は、テレビの「番組」や「チャンネル」という概念を突き崩した。インターネットでテキスト検索して欲しい情報にたどり着く感覚に似ているという。

 「Spiderは単なる機器ではなくエクスペリエンス。番組やチャンネルではなくコンテンツを見る――見たかったコンサートを見たり、行きたかった場所に行く、というエクスペリエンスだ。今後、テレビはエクスペリエンスになっていく」

Eee PCならぬ「Eee TV」が実現?

 Spiderは、内蔵した2.5TバイトのHDDにコンテンツを蓄積するが、各家庭に同じデータが蓄積されるのは効率が悪い。久夛良木氏が夢見る未来のテレビは、すべてのデータをネットの向こうのサーバに蓄積。家庭などに置く、低スペックなクライアントテレビから、自由に呼び出して再生する――というものだ。

 「これまでクライアント側で開発してたものが、ネットワーク側に移行する。ASICと組み込みOSを使い、C言語で書いていたものが、JavaScriptを使ったWebアプリなどで実現できる」(久夛良木氏)。PCの世界でいう、クラウドコンピューティングの発想に近い。

 コンテンツの蓄積や重い処理はサーバ側で行うから、テレビ側のハードは最低スペックでOK。久夛良木氏はこれを、Webアプリ中心に使うことを想定した低価格PC「Eee PC」になぞらえる。「Eee PCが可能ならば、Eee TVもできるということ」

 サーバ側は、配信先の端末の解像度や環境、ユーザーニーズに合わせ、超高精細な画像から低解像度の画像まで自在にエンコードして配信できるようになり、「壁面いっぱいのテレビからクレジットカードのように小さな有機EL端末まで、ありとあらゆるものが動画のインタフェース、という時代になる」(久夛良木氏)

テレビから「枠」がなくなる

 麻倉氏は未来のテレビで、さらに没入感のある映像を楽しみたいという。テレビが壁と一体化することが理想だ。

画像 麻倉氏

 番組を自由な視点から楽しみたいとも話す。「クラッシックコンサートでも、『なんでこいつしか映さないんだ』『別の席からの映像や音を楽しみたい』と思うことがある。フレーミングがコンテンツとの距離を妨害し、画素がリアリティを阻害している」

 久夛良木氏によると、多視点からの映像撮影の実験はすでに行われているという。サッカースタジアムにカメラを並べ、シュートの瞬間は、ゴール周辺のカメラからの映像をつなげて臨場感ある映像を楽しめるといった実験だ。「夢の世界が、すでに実現している」

 最終的にはテレビが“なくなる”のが麻倉氏の理想だ。「ワイヤレス化でケーブルがなくなり、脳波などで思った通りに操作できるようになってリモコンがなくなり、本体は壁に埋め込まれて“壁”になる。未来のテレビはフレームがなくて壁全体がディスプレイになっていて、映像ソースに合わせてフレームを切っていくイメージだ」(麻倉氏)

Googleがテキストベースで行ってきたことが、動画でも起きる

 今後ネット上には、リッチな動画コンテンツが無限に増えていくと久夛良木氏は予見する。HD動画を撮影・ネット公開するハードルはどんどん下がり、個人の気軽なホームビデオからプロ・セミプロの作品、放送局の制作した番組まで、あらゆる動画がネット上に蓄積されていくとみているためだ。

 SD映像のHD化技術や、映像の修復技術の研究も進んでいるため、VHSや8ミリビデオなどで保存しておいた古い映像をネットに上げ、修復・高画質化して保存するといったことも可能になってくるかもしれない。

 そうして世界中のあらゆる動画がネットに載り、動画の“クラウド化”が進んでさまざまなハードから閲覧でき、テキスト検索するように動画を検索できる時代が来た時、「とてつもないことが起こる。Googleがテキストベースで行ったことが動画でも起きる」(久夛良木氏)

 「冨田勲が1979年に1億円もするシンセサイザーを武道館に持ち込み、電子音楽をやった時代から、手元のMacだけで作曲、演奏できるDTMに一気に行ったように、動画を手軽に制作し、今よりずっと簡単にネットにアップできるようになれば、面白いコンテンツがネット上に蓄積してゆくのではないか。さまざまな動画や“放送局”が無限に花開き、ユーザーは動画を介してもっといろんなコミュニケーションをやりたくなるだろう」

 テキストベースのWebで起きている「マッシュアップ」のような動きも期待できると話す。「複数のサービスがクラウド的につながり、動画をベースにしたマッシュアップサービスも生まれるだろう。そうなれば、文字で起きたことよりはるかに大きな、文化を変えるインパクトがあるだろう」

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