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VOCALOID“神調教”技術「ぼかりす」実用化へ、ヤマハと産総研が連携

» 2009年04月27日 11時25分 公開
[ITmedia]

 ヤマハは4月27日、初音ミクなどのVOCALOIDを簡単に“神調教”できる技術「VocaListener」(ボーカリスナー、略称「ぼかりす」)の実用化に取り組んでいると発表した。基本機能をネット経由で利用できる「Netぼかりす」としてこのほど、一部ユーザー向けに試験サービスを開始した。

 超リアルな歌声を簡単に生み出せる謎の技術として注目を浴びたぼかりすが「ニコニコ動画」に登場して1年。VOCALOID技術の本家ヤマハは、開発元である産業技術総合研究所(産総研)からライセンスを受け、実用化に取り組む。

画像 産総研のニュースリリースより

 VocaListenerは、人間の歌声など歌唱データと歌詞を入力するだけで、歌い方をそっくりまねた歌声を合成できる技術。(1)合成音を取り込んで分析し、パラメーターを補正して合成し直す処理を何度も反復することで、リアルな歌声の再現が可能、(2)歌詞と歌声を高精度に対応付けられる、(3)歌詞と歌声のズレを指摘すると、複数の修正候補を自動で提示し、誤り訂正できる――といった特徴がある。

 ヤマハはこのほど、VocaListenerの基本技術をネットワーク上のサーバーで動作する「Netぼかりす」のα版試験サービスを、一部ユーザーを対象に始めた。

 「Netぼかりす」では、歌詞データと、歌声のWAVファイルをネット経由でサーバに送信すると、わずか数十秒から数分でVOCALOIDの編集ソフトで使えるフォーマットに変換され、ユーザーのもとに届けられる。スキルを持ったユーザーでも、手動でその作業をするならば、数時間から数十時間を要する作業がわずか数分に短縮されるのだ。

 ユーザーは元歌を歌って録音し、そのデータと漢字交じりの歌詞を送れば、その歌い方をそっくりにまねたVSQというVOCALOID Editor形式に、歌詞が入った状態で変換してくれる。

 インストールされているVOCALOIDシンガーの特徴に応じて最適なデータに変換される。男性が歌ったものを5度や1オクターブ高く変換することも可能。その際には不自然さをなくす処理も行われる。

 これまでも鼻歌入力が可能な音楽ソフトはあったが、音の高さを入力できるだけで、節回しやビブラートなどのテクニックはもちろん、歌詞まで付けることはできなかった。

 「Netぼかりす」α版を使用した一部ユーザーによる作品公開は28日から。α版は機能を簡略化しているため、VocaListener本来の性能は出ていないが、公開作品に対する一般ユーザーの感想を今後の開発に反映する。

 Netぼかりすを改良した試用版のモニターを今後、公募する予定。VOCALOIDをネット経由で操作できる「NetVOCALOID」との連携や、PC以外のさまざまなプラットフォームでの展開を視野に開発を進める。

「ぼかりす」発表から1年、その歴史

 VOCALOIDは音符と歌詞を入力するだけで手軽に歌を歌わせることができる技術で、初音ミクなどのバーチャルシンガーによる作品が日本のヒットチャートを席巻するまでになっている。しかし、その歌声をより人間に近づけるには一般的に「調教」と呼ばれている細かな調整技術が必要で、これには高度なテクニックと時間がかかる。

 それをコンピュータ処理による自動化で大幅に短縮できるのが産総研の「ぼかりす」技術だ。

 2008年にニコニコ動画に投稿された「【初音ミク】 PROLOGUE 【ぼかりす】」は、最初は産総研の技術であるということも隠し、いったいVOCALOIDをどういじればこのようにリアルな歌声が出せるのか、謎解きレースが始まった。その謎解きの中で産総研の名前が挙がって、実際に学会で「VocaListener」が正式発表されたのが1カ月後の5月28日。

 その後もぼかりすを使ったニコニコ動画への作品投稿は産総研から数回あったものの、その商品化計画については伏せられたままだった。

 一方、ユーザーのあいだから、ぼかりすと同様の成果を出すことができるソフトウェアがいくつも出され、「MikuMikuVoice」「VocaSim」などではすでに多くの作品が公開されている。

 ヤマハは同社の音楽技術をサーバ経由で提供するY2プロジェクトを進めており、その1つが先日発表された「NetVOCALOID」。その直接の成果物としては、auの携帯電話で歌詞を入力して、一定のメロディーで初音ミクやがくっぽいどが歌い、その音声データを携帯に戻してくれるサービス「ミクと歌おう♪」「ケータイがくっぽいど」だ。

 ただし、これは主に非DTMユーザー向けのもので、VOCALOIDユーザー向けのY2プロジェクトサービスとしては、今回の「Netぼかりす」が初となる。昨年5月28日の学会発表からヤマハと産総研の協力関係はスタートしている。

 産総研のVocaListener技術には、「音高遷移が半音単位となるように補正」「音高・音量軌跡を変更することで、歌唱力を補正」などを使った「歌唱力補正機能」というものがあり、今後のNetぼかりすに実装される可能性もあるという。これが実現すれば、それほどうまくない元歌でも、「プロによる歌唱」に近づくことが可能になる。

 産総研とヤマハのタッグにより、さらに人間っぽくなった初音ミクの歌を手軽に作り上げることができる日が来る。

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