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第3章-1 子どもはなぜ巨大ロボットが好きなのか ポスト「マジンガーZ」と非記号的知能人とロボットの秘密(2/3 ページ)

» 2009年05月25日 14時35分 公開
[堀田純司,ITmedia]

 その結果、わかったのは「子どもは小さいんだ」ということ。子どもにはお父さんやお母さん、それに兄や姉など、自分より体の大きい家族がいて、家庭の中でなかなか自分の思うとおりにはふるまえない。もし大きくなれたら。それも大人よりもっと大きくなれたら。そうした気持ちがある分、子どもは大きなロボットに憧れる。

 しかも巨大ロボットものは、従来のヒーロー作品とは異なり、主人公は普通の人間である。それがロボットに乗り込むことでスーパーパワーを手に入れるという設定を持つが、アイディアがSF的な分「いつかは実現しそう」という夢を感じさせ、感情移入もより強くなる。

 このような、今風に言えば“マーケティングリサーチ”を行ったサンライズの人たちは、『勇者ライディーン』で搭乗型ロボットの「マジンガー」の設定をさらに進め、「主人公がロボと一体となって戦う」という設定をつくった。

 ライディーンは全長52メートル、体重350トン。ムートロン金属という神秘の力を持つ材質でできている。『マジンガーZ』の主人公、兜甲児がロボットの頭脳の位置、頭部に乗り込むのに対して『勇者ライディーン』のひびき洸はロボットの額に吸い込まれた後、ハートの位置、左胸部に搭乗する。操縦席では洸の腕にケーブルが連結され、洸の動作がライディーンの動作に反映される。

 ライディーンと洸は念動力によって精神的にも一体化しており、ロボットのダメージは洸にも反映され、ライディーンが敗北した際には洸も命を落としてしまったこともあった(その後、ライディーンが復活するとともに操縦者もよみがえった)。

 また『勇者ライディーン』には村上克司氏の発案により、巨大ロボットの新たな“機能”が開発される。そう、変形である。ライディーンは人型形態から鳥型の飛行形態「ゴッドバード」に変形し、番組のクライマックスではこの飛行形態による突撃が必殺技としてフィナーレを飾る。

 このアイディアには映像制作側の人々も舌を巻いたというが、村上氏は自宅にこもって機構図を描き、描くだけでは想像力が及ばない部分はクラフト用紙で実際にモデルをつくって確かめ、そしてまた機構図を描いて、実際に現実空間で再現できる変形デザインを実現してしまった。

 村上氏は続く『超電磁ロボ コン・バトラーV』では、5体のメカによる合体ロボット機構を開発する。この合体と変形は、男子がロボットに抱く普遍的なロマンとなり、以降の巨大ロボットものに受け継がれていった。

 村上氏は「日本では、なぜか知育玩具、教育玩具があまり売れず、発展しなかった。しかし、だからといって子どもたちの創造性を育てるような玩具がなかったかというと、それは違う」と後に語っている。ロボットの玩具が子どもたちの創造性を育てる役割を果たしたのだと。子どもたちは、番組の中のかっこいいロボットに憧れ、そしてロボットの玩具を手にとり、想像力を働かせながら合体や変形遊びを楽しんだ。

 こうした子どもたちの風景が、現在、現実の日本のロボット開発に結びついていることは間違いないだろう。

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