(※)この記事は前編の続きです。前編:日本のWebは「残念」 梅田望夫さんに聞く
――インターネットの可能性は上から下まで開かれているところにあると思います。梅田さんの著書を読んでいると、例えば、最新刊「シリコンバレーから将棋を観る」の前書きにも、将棋を愛する人物の例として、医者や会社社長など肩書きのある“ハイソ”な人ばかり出てきて、「頭のいい人はすばらしい、頭のいい人は分かっているよね」とおっしゃっている印象を持ちます。
そういう言われ方をすれば、もうみんなそう思っていると思うけど、僕はそういう人間だよ。ハイブロウなものが好きですよ。それはしょうがないじゃない。
それは否定しないよ。僕はそういう人間だからね。でもね、本当はできる人が「できない」と言う文化は嫌いですね。本当はできる人が「自分はダメである」といってみんなと仲良くせざるを得ない日本の社会というのは嫌いですよ。
高校生でも中学生でも、勉強ができる子が「できる」と言わない。頭のいい子は隠れる。「ウェブ時代 5つの定理」(文藝春秋)の時も、「これは“上の子”に向けて書いた本だ」と、はっきり言ったんだけど。
これは僕の思想でもあるんだけど、「インターネットとは何ぞや」というところにあんまり興味がないと言ってもいいのかもしれない。僕自身の根源的な興味というのは。
インターネットは、自分が若いころにあったらよかったなぁという感じですよ。これを使ってどこまでも行けたよなぁと。そういう意味で「学習の高速道路」と羽生(善治)さんが言えば、羽生さんとそういう話をしていたい、というところは当然ありますよ。(※)「ウェブ進化論」には羽生さんの言葉として、「ITとネットの進化によって将棋の世界に起きた最大の変化は、将棋が強くなるための高速道路が一気にしかれたということ」と書かれている。
そういうたいへんな能力を持っているインターネット空間、そういう興味だよね。インターネットに対する興味は。
もともと僕がやってきたことは、すごくハードルが高いよね。例えばアントレプレナーシップ(起業家精神)もシリコンバレーも、ハードルが高いじゃない。ずっといろんなことをやった上で到達できるところじゃない。
専門ってそうだよね。(僕がやっている)経営コンサルティングだって。「ハイソ」と言われたけど、たまたま僕の職業でそういう人と付き合いが多くて、そういう仕事をずっと選んできているわけだし。
そういう人たちがもっと、さらに向こうへ行ってアメリカと戦うとか、もっと何もないところで市場を創造するとか、そういうとこの手伝いをしているわけじゃない。仕事として。
そいういうところに何が一番大事かというと、これだけすばらしい道具がどんどん進化しているんだから、インターネットやコンテンツを含めて、それを使ってとにかく、もっとすごいところに行こうよ、という、そういうところなんだよね。自分の仕事って。
ベンチャーキャピタルにだって、そこそこのビジネスからすごいビジネスまでが来て、その中で一番すごいのを選ぶという仕事でしょ。
日本とシリコンバレーを融合させて何とかしようとか、「シリコンバレー1万人移住計画」(シリコンバレーに日本の技術志向の若者1万人を移住させ、活躍を応援しようという梅田さんのプロジェクト)とか、僕の思想は全部、そういうところにあるからさ。そういうのが気に入らないならどうぞ、というか僕自身がそういうことをやっている人間なんだから。
逆に言えば、京大の山中先生(京都大学再生医科学研究所の山中伸弥教授)のような人が学問をやり尽くしてノーベル賞を取ろうとしているとか、日本画家の千住(博)さんが歴史に残る仕事をしているとか、羽生さんがこういうことをしているとか、そういうのが好きですよ。そういうのが好きだということが言える社会であってほしいと思うよね。
ひょっとすると、たまたまテーマに選んだネットやWebというものについて、「ウェブ進化論」みたいなもので僕が世の中に出たということは、僕自身の志向性と若干齟齬(そご)をきたしている可能性があるのね。客観的に僕を見たときに。
ウェブ進化論が予想外に売れてしまったためにマスと対峙(たいじ)せざるを得なくなり、僕自身の最先端・最高峰を愛するという本質的な志向性から、しばらく離れてしまっていたんだな、と最近つくづく思います。それは、「シリコンバレーから将棋を観る」を書いてみて、改めて痛感したこと。やはり僕は、こういう超一流の世界が好きだから。
ただ近藤君(はてなの近藤淳也社長)は大好きだから。はてなという会社はまだうまく行ってないわけだけど、彼らが一生懸命やっていることは僕自身もずっと応援していきたいし、一緒に苦労したいと思ってるよね。
――近藤さんがアメリカに行ったこと(近藤社長は2006年米国に支社を設立して渡米。08年に日本に戻った)に対する評価をお聞きしたいのですが。(※)梅田さんは05年3月からはてなの取締役を務めている。
近藤というのはね、何でも自分で腹に落ちるまで自分で挑戦するんですよ。その辺が僕と彼との関係で難しいところです。
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