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「検閲」か「編集上の判断」か――Wikipediaの情報削除めぐり批判(1/2 ページ)

» 2009年07月03日 15時00分 公開
[Clint Boulton,eWEEK]
eWEEK

 ジミー・ウェールズ氏は、自身が創設したオンライン百科事典Wikipediaの擁護に多くの時間を費やしている。Wikipediaでは、ホットドッグの歴史から有名人の経歴まで、あらゆるものに関する記事をWebユーザーが匿名で編集できる。

 先週もウェールズ氏の聖戦は続いた。きっかけは6月28日のNew York Times(NYT)の記事で、同氏、Wikipediaの管理人、NYTが協力して、誘拐されたNYTのデビッド・ローデ記者に関する情報をWikipediaから定期的に削除したと報じられたことにある。この行為はローデ氏の命を救うために行われたものだが、一部のネット専門家は検閲だと主張している。ウェールズ氏はそうした批判をきっぱりと否定している。

 インターネットと社会のためのバークマンセンターのフェローで、市民メディア法プロジェクトのディレクターを務めるデビッド・アルディア氏は、Wikipediaがほかの件でも同様のことをしてきたのではないかという疑問を抱いている。

 「Wikipediaがサイトに掲載されているトピックを検閲していないことを前提にしていたのなら、それは真実でなかったことになる。そしてこんな疑問がわいてくる。『ほかにも同じような理由でWikipediaから消された情報があるのだろうか?』」とアルディア氏はeWEEKに語った。

 ウェールズ氏はeWEEKに、「わたしが知っている限りでは、ほかに情報が消されたケースはない」と語り、出所が分からない、信頼できない情報がWikipediaから消されることはたくさんあると付け加えた。知識は時間をかけて広まっていく性質があるため、時には、削除された情報が後で正しかったと判明することもあると同氏は語る。

 アルディア氏はまた、ウェールズ氏とWikipedia管理人の行為は、Wikipediaを「完全で公平なニュースと情報の源」と考えている人々からの信頼を損ねると指摘する。ウェールズ氏はこれに異を唱え、以下のように、同氏らの行為は検閲ではないと主張した。

 「品質に関するルールを厳密に適用した行為だった。われわれが『信頼できる情報源を求めている』『われわれの成果がもたらす人道的な影響を気に掛けている』と言っているときは、本気でそう言っているのだ。人々が、この時代になってもまだ『検閲』――力によって行われるもの――と『編集上の判断』――何を公開すべきかについての理性的な判断――の概念を区別できないのは奇妙だと思う。こうした言葉の誤用が、重要な状況の事実を理解できなくしている」

 この問題の原因となった出来事は、2008年11月10日、ローデ氏がアフガニスタンでタリバンに捕らえられた直後に始まった。NYTの関係者は、Wikipediaなどのサイトでこの事件が取り上げられたら、タリバンがローデ氏を非常に重要な人物と見なして開放を拒み、同氏の生命の危険が高まるのではないかと懸念したと、同紙の記事には書かれている。

 Wikipediaのユーザー編集者らは、Wikipediaのローデ氏のページに少なくとも十数回、誘拐についての情報を書き込んだという。だがウェールズ氏、Wikipediaの管理人、NYTのスタッフは同サイトを監視し、ローデ氏の状況に関する情報を削除し、さらに編集を防ぐためにページを凍結した。

 ローデ氏の生命を危険にさらすことを恐れて、NYTのマイケル・モス記者は11月12日、Wikipediaのローデ氏のページを編集して、イスラムに共感的とも受け取れる同氏の作品を強調した。その翌日、ユーザー名のない編集者が、このページに誘拐に関する情報を書き込んだ。モス氏はこれを削除したが、消した情報が、抗議のメモとアフガンの報道を加えた形で再度投稿された。

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