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「検閲」か「編集上の判断」か――Wikipediaの情報削除めぐり批判(2/2 ページ)

» 2009年07月03日 15時00分 公開
[Clint Boulton,eWEEK]
eWEEK
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 このころ、NYTはウェールズ氏に電話をかけ、ローデ氏に関する情報を抑える手助けを頼んだ。誘拐に関するニュースは何度も投稿されては削除され、11月13日にはWikipediaの管理者が3日間編集を禁止した。16日には再び、2週間の禁止措置が取られた。2月までこのような編集合戦が続き、ユーザー編集者は投稿が消されたことへの怒りのメッセージをWikipediaに残した。

 ローデ氏は6月20日に脱出し、ウェールズ氏はページの凍結を解いた。Wikipediaに人1人の命がかかった状態で、1カ月にわたって情報を抑える戦いは終わった。ウェールズ氏は、ローデ氏の誘拐についての情報をWikipediaから削除するという決定を後押ししたのは、主要ニュースサイトがこの事件を伏せていたという事実だったと話している。

 アルディア氏は、Wikipediaがある程度はオープンであり、管理人に公開すべきものとそうでないものを判断する権限が与えられていること、論争の対応プロセスがきちんと文書化されていることは認めている。同氏は次のように付け加えた。

 「管理人がその権限を行使しないことは多く、このためわれわれはWikipediaが完全な言論の自由の権利があるオープンなサイトだと思っている。だがそうではない。今回の件では、はっきりとは分からないが、Wikipediaの通常の論争仲裁プロセスが実施されたようには思えない。代わりに、ウェールズ氏ら組織の上層部が、ローデ氏の記事から誘拐の情報を排除すると決定した」

 ウェールズ氏はこれに応えて、Wikipediaの編集プロセスは100%順守されており、今回の件は通常のやり方で処理されたと語っている。「いかなる形でもWikipediaのルールが曲げられたり、破られたことはなかった」

 アルディア氏によると、新聞社が競合紙や提携紙に対し、危険な状況にある記者の情報を報じないように頼むことは以前からあった。このような行為は、世間にはめったに伝えられない。

 こうした対処は通常、編集者から編集者への電話連絡によって行われる。だが、オープンなクラウドソースサイトが存在するデジタル時代では、そのような要求に対応する中心的な管理者の連絡先を見つけるのは難しいと、アルディア氏は指摘する。だがWikipediaは違うということが分かっていた。ウェールズ氏は有名なので、NYTは簡単に連絡を取って手助けを求めることができた。

 今回Wikipediaが取った対応は、人々のWikipediaへの見方を大きく変えるだろうか? アルディア氏は、そうはならないだろうと言う。

 調査会社Gilbane Groupでコラボレーション技術を担当するジェフ・ボック氏は、この一件への対処はWikipediaの成熟を示しているとし、Wikipediaが本格的な情報源として真剣に受け止められるのであれば、同サイトの参加者は大人の分別を持って行動することを自覚しなければならないと付け加えた。

 「確実に境界線はある。NYTとローデ氏の件は慎重を要するデリケートな状況であり、適切な対処が必要だった」とボック氏は言う。「この件は、Wikipediaが自身のことを真剣に考えることをいとわず、自身が置かれた環境を理解していることを示している。今、彼らの提供する情報は以前よりももっと尊重されるようになっている」

 ウェールズ氏は、ローデ氏の件に対する同氏やスタッフの対応は「Wikipediaを何でもありだと思っていた人にとっては意外だろう。だが、Wikipediaは何でもありではないし、これまでそうだったこともない」と話している。

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