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金星へ飛び立つ「あかつき」と初音ミクパネルを見てきた(1/2 ページ)

» 2010年02月23日 09時54分 公開
[森岡澄夫,ITmedia]
画像 JAXA相模原キャンパス

 初音ミク、金星へ――宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2010年度に打ち上げ予定の金星探査機あかつきに、初音ミクのイラストと、ミクファン1万人以上が寄せたメッセージ入りパネルが3枚、搭載される。

 筆者はJAXAを訪ね、最終準備に入ったパネルや実物のあかつきを見てきた。そこからは、空想を超える現実のすごみが伝わってきた。

「ミクが宇宙へ行ったら楽しいな」

 JAXAは昨年10月から今年1月まで、あかつきのパネルに載せるメッセージを募集。個人か100人以上の団体単位で応募でき、団体応募ならパネルにイラストも載せられるという内容だ。

画像 メッセージキャンペーンの告知。あかつき分は終了したが、小型ソーラ電力セイル実証機「イカロス」は3月14日まで募集中

 「ミクが宇宙へ行ったら楽しいな」――筆者はそんな遊び心から12月上旬、「初音ミクを金星へ」とネットで呼び掛けた。ミクファンのメッセージを100件以上集めて団体で応募すれば、ミクのイラスト入りパネルを金星に運べると考えたのだ(初音ミクを金星に あかつき“搭乗”目指し、賛同者募集中)。

 メッセージはその日のうちに100件を突破。企画を知ったJAXA宇宙科学研究本部対外協力室・阪本成一教授から「1万件集まったら、パネル1枚が専用で使えます」と連絡が届いたことがきっかけでさらに盛り上がり、締め切りの1月上旬までに1万3849人分も集まった。最終的には、ミクのイラスト入りパネル3枚をあかつきに載せられることが決定。イラストは「ピアプロ」で募集し、たくさんの応募があった。

 よもや1万人規模の活動になるとは、発案者の筆者も少しも予想していなかった。ミクが宇宙へ行ったら楽しいという遊び心を曲げずにいただけで、もし、難しい意義・理屈を先に考えていたら、うまくいかなかっただろう。

 しかし、この企画に深く関わり、ぐんぐん増えて行くメッセージを1つ1つ丁寧に読んでいくうち、あかつきそのものへの興味・愛着もがぜん強くなってきた。メッセージや力作の絵を寄せてくださった方々も同じであろう。おのずと、ミクパネルはもちろん、あかつきがどのようなもので、どう宇宙へ旅立っていくのかを実際に見たい! と思うようになった。

メッセージ応募数、「かぐや」超える

 2月上旬、阪本教授とあかつきのプロジェクトサイエンティストを務める今村剛准教授をJAXA相模原キャンパスに訪ね、あかつきメッセージキャンペーンにまつわる話や準備状況などをうかがい、あかつきの実機やパネルも見せてもらった。相模原キャンパスは、大学や企業の研究室などと似た、とてもリラックスした雰囲気の場所である。

――ミクの件ではありがとうございました。メッセージキャンペーンには、どれぐらいの応募が集まったのでしょうか。

画像 関係者お手製のあかつきマスコット

 合計26万214件と多くの応募が集まって、成功でした。そのうち個人応募が5万4632件、団体申込分が14万8204件(ミクの1万3849件も含む)、米国惑星協会から5万7378件です。米国惑星協会を除く分については、「かぐや」(2007年に打ち上げられた月周回衛星)よりも増えました。搭載するパネルは100枚を予定していましたが、おそらく90枚ほどになります。

――メッセージキャンペーンを実施するうえでのご苦労は。

 キャンペーンをいかに宣伝するかですね。このようなキャンペーンを始めた1998年ごろには、はがきでの応募の形を取っていたので、1つずつ手でコピーしたりしてそれはもう大変な作業でした。今ではインターネットでの募集ができるようになったので、作業としては随分楽になっています。しかし、放っておいても多くの人を簡単に集められるようになった、というわけではありません。いくつもの衛星でキャンペーンをやっているので、マンネリに陥らないよう工夫しようとしています。

――どう盛り上げるかが難しいわけですね?


画像 木梨憲武さんや皆藤愛子さん、平山あやさんなど著名人からの色紙も。JAXAサイトより

 じつは何回実施しても、国民の関心が薄れていくということはありません。宇宙と聞くと目を輝かせる人はいつも多くいます。しかしメディアが関心を無くしてしまって、だんだん報道されなくなっていきます。その結果、参加したい人たちはいるのにキャンペーンの存在が知られていない状態になってしまうので、これを打開しようと腐心しています。

 キャンペーンの本当の目的は、ただむやみに人数を集めることではなくて、宇宙に関心や親しみを持つ人達を新しく育てることです。インターネットで応募をかけているだけだと、最初から宇宙に関心を持っていた人しか集まりません。

 団体応募枠で学校などから寄せ書きを頂くのは、先生が子供たちに趣旨を説明してくれ、子供たちの家庭の方も関心を持つ、というように広がりが生まれるからです。著名人から色紙を頂いたりもしていますが、これもその方達が宇宙への興味を語るきっかけになれば、との思いです。

 頂いたメッセージは全部あかつき関係者で拝見していまして、感動していますよ。みんな、「これほど多くの人達が応援してくれているんだから、本当に頑張ろう」という気持ちです。廃校になる高校の記念にとの応募など、泣ける話がたくさんありました。

――金星ミクはお役に立てたでしょうか。


画像 阪本成一教授(左)と今村剛准教授

 キャンペーンの目的に合致したとても良い企画だと思います。現在はおもにJAXAが主導して企画立案や宣伝を行い、メッセージを集めています。しかし、それだとどうしても広がりに限界があります。金星ミクのような自発的な応援活動が、あちこちに草の根的に増えて行くならば理想的です。今後も是非お願いします。

 ミクパネルに掲載された絵も全部拝見しましたよ。関係者の中で特に受けていたのは、パイオニア10号のパロディ電波実験でミクが叫んでいる絵です。あかつきのミッションをよく研究されていてうれしかったですね。


画像 パイオニア10号のパロディ
画像 電波実験でミクが叫んでいる絵

パネルはバランスウェイトの役割 「メタルフォト」で作成

画像 メッセージパネル試作品。1万3849人の声を凝縮しており、精密感にあふれている

――メッセージが載るパネルは、どのような物でしょうか?

 12×8センチの大きさで0.2ミリ厚のアルミ板です。そこへ、図面を9×6センチの大きさで転写します。団体応募の分については、1パネルあたり約25件載ります。図面の周りには、衛星へ取り付けるためのビス穴が設けられます。

 このパネルは衛星のバランスウェイトの一部です。衛星にはもともと、重心調整用に約20キロの真鍮(しんちゅう)製バランスウェイトを積むことになっています(衛星の総重量は約500キロ)。エンジンの噴射時に推力軸が重心を通っていないと衛星がひっくり返ってしまいますので、その微調整をするのが目的です。このバランスウェイトは、衛星が組みあがってから実機合わせで取り付けます。そのうち数百グラムをメッセージパネル用に割り当てているということです。


画像 パネルのサイズは12×8センチ、絵は9×6センチで、周りに衛星取り付けビス穴がある
画像 ミク以外のパネルのレイアウト。25団体で1パネル使う。学校のクラスで寄せ書きしたものが多い

――パネルはどのように作られているのでしょうか? 宇宙でも大丈夫ですか?

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