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Kindle時代のテキストとは ARに見る未来、「セカイカメラ」実験から得たもの(2/3 ページ)

» 2010年02月25日 14時31分 公開
[よくわかるARの会(仮rev),ITmedia]

 「だから今から英語を学びましょう」……ではなく、ネット小売、ネット小説家、ネット漫画家と同じように、ネット翻訳家が出てくるのが、面白い、ほんの少し先の未来だと思います。現状ですと、なかなかまだ実績のない書き手が「翻訳の話込みで海外に売り込んでもらえる」ケースはあまり見込めませんが、ネット作家とネット翻訳家が最初から手を組んで印税配分を取り決め、コンテンツを電子書籍市場のインフラでデジタル配信し、それが海外の小飼弾さんみたいな人に紹介されて外国でファイルが売れる未来は、実現してもおかしくないと思います。2人でインカムを分けても、縮小する国内市場で展開するより分がよい可能性がありえます。秋葉原や渋谷を舞台にした物語などは、需要があるかもしれませんよ。やるなら、伝統的ファンタジーは不利で案外、学園モノがよいみたいです。日本のコンテンツが得意としてきた領域です。

 そしてもしデジタル技術によって、もっとダイナミックな世界がやってくるのであれば、その時テキストも新たな形をとりはじめるでしょう。学生がケータイで小説や漫画を読みはじめたとき、おじさんたちは「ケータイがコンテンツの場になるはずはない」と言っていました。結果はご覧のとおりです。ならば、いまは場になるとはとても思えないARも、コンテンツの配信先になる可能性があるのではないでしょうか? 私たちは、その可能性の未来に向けて、拡張現実、ARの技術を使ってコンテンツができること/できないことについて考えようとしています。

テキストの可能性の実験 「西新井エクスペリメント」

 わたしたち「よくわかるARの会(仮rev)」(小説家の桜坂洋さんとライターの堀田純司)は、AR(拡張現実)の技術を使ったテキストコンテンツの可能について実験をして行こうと思いたち、まずその最初の試みとして、昨年、2009年末にエアタグを使った小規模なゲームを展開しました(桜坂洋×セカイカメラ×Twitter新企画、年末年始はiPhone持って足立区へ)。そもそもなぜ、このような試みをしたのか、それはなによりも「ARを面白いと思ったから」が理由なのですが、実施によっていろいろなことがわかってきました。

 実験の場所はとある東京の関東三大大社のひとつでした。小説や漫画の舞台に現実の場所を使って、その結果「怒られました」という話はときに聞きます。ではエアタグを貼って物語を展開した場合「それは怒られるのか」。非常に興味深い問題ですが、わたしたちが人柱第1号になるのもアレですので、ここではあえて場所は明記しません。

 初詣でにぎわう神社をステージにして、桜坂さんがセカイカメラのエアタグをつかって謎を提示。それを正しく解いていった人は「真の解答にたどりつくことができる」というARコンテンツです。たとえば、お客さんにはこのような謎が提示されました。

 むかしむかし疫病が流行った際、弘法大師がこの地を訪れ、枯れ井戸に災い封じの自像を埋めたところ、井戸から清水がこんこんと湧き出たといいます。井戸が本堂の西側にあったため、この地は「西新井」と呼ばれるようになりました。

 一説によると、弘法大師は杖で突いたのだとか、岩山両斬波を使い大地を砕いたのだとか言われていますが定かではありません。

 この井戸の水は、いまでも、○○水として大切に使用されています。

 さて、○○にはなんの言葉が入るでしょう?


 クリアには虚と真の2つのルートがあり、正しい解答に到達するためには「ウソをウソと見抜く力」が要求されます。虚のルートのエンディングは、「蒼天」という男の物語。ARが「現実を拡張する技術」であるのと同じように、蒼天の物語も現実の伝説と歴史を虚で拡張する短編ストーリーとなっています。真のルートのエンディングでは、同じ物理空間を共有しながらも、ARコンテンツを閲覧していた人はしていない人と少し違うリアルを体験していた。その経験は、あなたにとってどのようなものだったか、と問いかける音声が流されました。

 また、おまけコンテンツとして山門の両脇に「ARおみくじ」を設置。直感の赴くままにエアタグを選ぶと、たとえば


【凶】

 メールに返事なく、ブログにアクセスなし。フォロワー減る。苦労絶えず。

 自分の都合ばかり考えている心や行為は世間に恥じるものである。反省し改め、忍耐強く慎重に行動することが必要。やがて運気も戻る。


 このように運勢を占ってくれるおみくじも桜坂さんが執筆。「善き書き込みを名無しで行うことを心掛けよ」「Twitterで自己を主張しもてはやされそうとするとき、名声は虚しいものと知る」「しかしケータイを見下し、iPhoneだけが優れていると思ってはいけない」などのアドバイスは、大いに思い当たるフシもあり胸が痛いです。

やってみて分かった、ARの面白さと課題

 実際に運用を行って、集まった感想を分類するとこのようになります。

(1)おみくじが楽しかった。全部見た。

(2)遠くに見えるのがクリックできなくて、近くに行ってできると得した気分に。

(3)iPhoneの機能を駆使するのが楽しかった/難しかった。(4)セカイカメラのログの一覧表示が見にくい。タグを拾い集めていくのに使ったが、最後の解答タグを探し出すのが大変。

(5)タグ写真が「統一されたデザインで、色が違う」みたいになっていると既読か未読かわかりやすかった。

(6)謎が難しい。

(7)iPhoneの電池が足りない。

 (2)については、実際にARゲームに参加し、リアルの距離と、バーチャルに手に入る情報のギャップが面白いという経験をいかした桜坂さんの計算がうまく生きたなと感じます(たとえばドラクエで、最初から見えている城になかなか行けないという状況は、とても想像力を刺激されましたが、ARコンテンツではそれを現実の空間でやれる)。

 (5)についてですが、AR情報が浮かぶ空間というのは、現実世界をロールプレイングゲームのフィールドマップに見立ててプレイヤーが実際に歩き回っているようなものだと考えることもできます。この場合、AR情報=エアタグが同じ形/似たような形をしていることはマイナス要因となります。わたしたちは、ひとつのテーマに沿ったエアタグが同じ形状であることを当然だと考えます。それは単なるつぶやき(≒ツイート)のようなものだからです。しかし、ロールプレイングゲームの中で、村人がみな同じ格好をしていたら困るはずでしょう。誰になにを聞いたか、見た目で判断できなくなってしまうためです。また、近年のゲームで自動マッピングの実装が当然であるように、エアタグの既読/未読は利用者が一望して判断できるようになっていることが望ましいと感じます。

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