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(最終回)世界中が日本化する? 草食男子と少子化の未来対談・肉食と草食の日本史

» 2010年05月14日 14時51分 公開
[本郷和人, 堀田純司,ITmedia]
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少子化の未来へ

本郷 ただ、今の時代で本当に厳しい問いかけは、「これからの時代はどうなるのよ?」という問題ですよね。

 統計的にも30代の多くは未婚のままですし、個人レベルでは独身生活が長くっても、ほとんど問題がない。ただし、これは大きく見ると少子化とも密接につながる問題なので、そこを忘れずにいることは非常に大事だと思います。

堀田 労働スタイルも流動化してしまって、「終身雇用? なんスかそれ、ぷぷっ」という世の中になった。同じように、一人の異性と一生添い遂げるという恋愛スタイルもとっくの昔に過去のものになったので、いかなるパターンでもなんでもアリという、多様なあり方を許容する方向性で行ったほうがいいんじゃないかと思います。

 ただ、歴史の流れって「もう仕方がない」と頑張ることをやめたら、ものすごい速さで一気に進行してしまいそうなので、もう少し保守的な恋愛像、家庭像を礼賛しておいたほうがいいのかもしれませんが。

本郷 アメリカがまさにそうして「家族っていいよね!」「ママ、愛してるよ」と、ことさら喧伝(けんでん)する方法をとっていますが、「それ日本人ができるか?」というと無理でしょう。

 そもそも、時間の流れは巻き戻せないですよ。歴史的には昔むかしの「家族」って、一族郎党を含めた巨大な単位でした。それが時代の流れとともに小さな単位に変化していき、大家族レベルになり、核家族になっていった。

 ここまで小さくなりきってしまうと、次の時代の単位は「個人」しかない。これは仕方のないことだと思います。もしも家族が小さくなっていくことを食い止めようとしても、結局アメリカだって成功していないでしょう? だから最終的には個人、一人になるしかない。滅ぶしかないのかもしれない。

堀田 統計では「家族と過ごす時間が一番大事」など、保守的な価値観を持つ人が増えているようなんです。でもこれは実情がどんどん流動化してしまっているからこそ、逆に「家族とはこういうものだ。ママ愛しているよ、チュッ」と、当為の理想が顕在化しているのかもしれませんね。

 僕自身は、もう労働も、家庭も、すべて流動化を前提にして税制や社会制度をつくるべきではないかと思っています。もうこうなったら、なんでもアリでぜんぜんオッケーですよ。多夫多妻だってどんとこいですよ。

本郷 アリだと思います。結婚を契約制にするのもいいでしょう。だけど……孤独ですよね。次世代を担い、僕らの年金を稼いでくれるはずの子ども世代をいかにして作るか、という問題が起こる。

 極端な話、外国人を誘致して頼る、という案も。人口が右肩下がりになることと、経済が右肩下がりになることは同時に起こるんですから。

堀田 部分的ではありますが、看護などの世界では、インドネシアなどから人に来てもらうことが始まっていますよね。同じようにして、もしも人口増加を担って強力なタフガイが輸入されてしまったら……。日本のホワイトトラッシュたちは武力もないし、成すすべもなく駆逐されますね……

本郷 絶対勝てない。現実問題として、日本女性って世界中からやたら人気があるじゃない。ところが日本の男って……全っ然人気ないですよね。

堀田 教育改革案として、小学生は空手や柔道を週20時間くらいの必須科目にするのはどうでしょうか。肉食化政策です。

本郷 勉強する量を増やすより、給食に血のしたたるステーキを。

堀田 メシは、まず相撲を一番とってから。しかし「セックスは奥さん、ロマンスは2次元」と望むバイセクシャル論で不安なのは、世の女性たちはとっくに「お金を運んでくれるのがダンナ、セックスは若い男」と、あちらはあちらで割り切っているのではないでしょうか。

本郷 堀田さん、それは違う。だからこそ僕たちはネトラレ文化というものを用意していたんですよ!

堀田 な、なるほどリアルに起こった哀しい体験を文学にまで昇華させて、2ちゃんねるに発信していくんですね。

本郷 そこで歴史の出番なんです。明治維新のときに、それぞれの藩が溶けて日本というひとつの国になったことを思い出してください。

 現代のわれわれは国という単位を自明のものと捉えますが、かつて明治維新がすべてを解体したように、その単位自体がボーダーレスになる可能性ってあるんですよ。

 もしも世界が単一のものになるとするならば、それは歴史の実験室と呼ばれた日本と近似のものになる。世界中の国々が、み〜〜んな日本化するんです。自由で平和で楽しいな〜、どうせどこに行ってもおねえさんが威張ってるな〜という感じに。だから嘆くことはないんですよ……。

堀田 そういえば本郷さんの奥様も、中世史の研究者ですね。

本郷 ご想像いただけるとは思うんだけど、同じことを研究するってことはすなわち、才能の違いを日々見せつけられるということになるんです。厳しいですよ。そんな思いをぐっとこらえつつ「働かねば!」と、仕事に食らいついているというのが現状です。

堀田 夫婦でかつ同僚であることならではのつらさですねえ……

本郷 互いのアビリティの伸びしろが、もうモロに見えてくるんだから(笑)。

(完)

本郷和人

 1960年、東京都生まれ。東京大学史料編纂所准教授。「武士から王へ―お上の物語」(ちくま新書)、「天皇はなぜ生き残ったか」(新潮新書)などの著書のほか、「センゴク バトル歳時記」(講談社)などの編著書もある。アカデミズム界の気鋭でありながら、娯楽領域でも活躍する歴史学者。近刊は「武力による政治の誕生」(5月6日刊、講談社選書メチエ)。


堀田純司

 1969年生まれ。作家、編集者。編集者としては「吉田自転車」「えの素トリビュート」「生協の白石さん」などの書籍を企画編集。ライターとしては「萌え萌えジャパン」「人とロボットの秘密」「自分でやってみた男」(講談社)などの著作がある。哲学や政治経済、「体験型映画紹介」など、取り上げる範囲は幅広い。近刊は7月に「生き残る専門誌」(仮)が講談社より発売予定。


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