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秀吉はツンデレ好き? 武士の“萌えどころ”対談・肉食と草食の日本史

» 2010年05月11日 15時00分 公開
[本郷和人, 堀田純司,ITmedia]
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生まれ変わるなら誰になりたいか

堀田 どの時代に生まれたかった、もしくは歴史上の、どのカップルになってみたかったと思われますか。

本郷 ナポレオンの女好きっぷりはおもしろいっすよね。女性サイドから見ても、浮気してるってバレバレじゃないですか(笑)。

堀田 彼の嫁さんは、もともと上司の情婦だった人ですよね。

本郷 しかも子どももいるし、彼は変態ですよね。

 一方、武士の世のセックスシーンがあるとして、それを今の時代の人たちが見たらかなり冷めると思いますけど。たとえば物語の中ですけれど、男衾三郎という武士は、武道の妨げにならぬよう、わざと醜さで有名な女を娶りました。

 これは戦国時代になりますが野戦の鬼、吉川元春も「女は醜女に限る」と言っていますねえ。武士たちには、そういう考え方が脈々と受け継がれているんですね。

 あとは、信長や家康という生まれたときからお殿様な人たちもおもしろいですねえ。彼らは女性に対して妙に淡白なんです。えり好みをしないんですよね。

堀田 生まれついての大名だと、えり好みする必要もなかったから、見た目よりも子どもを生む機能が大事になるみたいですね。「生む機械」というと昔の厚生大臣みたいな物言いですが。

本郷 だから信長も家康も、すでに子どもを産んだことがある未亡人を妻にするんです。子どもを産む能力があることが担保されている女性というわけで、なんとも合理的ですよね。だけど秀吉みたいにルサンチマンを抱えた男は、お姫さまらしい女を選ぶ。

堀田 あの人の好みのタイプは、男として非常に分かりやすいですよね。今でいうところのツンデレ系お嬢様。

本郷 う〜ん、ツンデレだったのかなあ(笑)。

堀田 淀君あたりはツンデレキャラ、晩年はヤンデレの気もありではないでしょうか。名門浅井と信長の血をひく、気位の高いお嬢さま。あっ、秀吉の正妻は口やかましいタイプの幼なじみキャラですが。

本郷 笑ってしまう話なんだけど、秀吉の妾の中には、なんと3人も信長関係者がいるんです。「オレは今、あの上様の〜」とか、彼の萌えがしのばれますよね。

堀田 僕なら萎縮するなあ(笑)。逆に、嫁さん一途な人というと細川ガラシャの夫だった細川忠興や、ガラシャのお父さんだった明智光秀が思い出されますね。

本郷 ガラシャの夫・忠興は、ほとんど犯罪レベルの執拗さで嫁さんを追っかけていたというし。

堀田 今でいうストーカー体質ですよね。ちょっとDVの気もありますし。

本郷 嫁さんにちょこっと男が近寄ることすら毛嫌いしたって言うんだから。一方の光秀は、糟糠の妻をとても大事にしたらしいけど、これも稀有。歴史的にみていくと、一夫一婦制って選択は当時ありえないんです。

 僕の場合はやっぱり秀吉になりたいですね! もう、きっぱり。信長の面影を残したお姫さまを側室にするって、やっぱりすごいファンタジーですよ。「オレは今、あの上様の〜」。

 信長とか家康じゃなくて、秀吉がいい。でも家康もね、晩年はけっこうロリコンなんですよ。

堀田 ちょっと勝気な女の子に操られるのが萌え、って感じになってますよね。阿茶の局に「一番おいしい食べ物は塩でございます」と賢しらげに言われて、「よしよし、かわいいのう」と、国会議員の晩年みたいな展開になっている(笑)。

本郷 だけどそれって人間としてどうなんだろうって。妄想っていう意味でいうと、やっぱり秀吉が一番しっくりくるなあ。あんなにやりたい放題な一生ってないですよ。

 あとね、僕の一番の夢は「小さな大名」になること。小さな大名ならば、藩政改革とかコツコツやって、「俺って名君かもしれない!」という喜びにひたれるからね。そいで片っ端から美人を集めて、帯を持ってクルクルクル……というバカ殿的なあれをやるんですよ。

堀田 そこらへん阿吽(あうん)の呼吸をわきまえた家老がスッと出てきて、「爺にもそろそろ分かりますぞ」と言いながら、また新しい美人を連れてきてくれるんですね。

本郷 家老の手引きを利用して、町でウワサの美男美女カップルを引き裂くわけですよ。あ、家臣の美男美女カップルもいいな。

堀田 『シグルイ』の徳川忠長みたいになっちゃいますよ(笑)。そう上手くいけばいいですけれど、将軍家の気ぐらいの高いお姫さまを無理強いされて、一生尻にひかれて終わっちゃうかもしれませんよ。侍女団がぞろぞろくっついてきて、もうお遊びどころじゃなくなります。

本郷 「なんと粗末な!」って、侍女の持つ箸でつままれた、なんて話もありますからねえ。

堀田 ひどすぎる(笑)。

本郷 徳川家斉みたいに子どもがたくさんいて、諸大名がそれを押しつけられて困ったという将軍がいましたからね。

 しかし日本じゃ殿さまを狂わす美女といっても30歳そこそこまでですが、中国の歴史には50歳を過ぎても男どもを血眼にさせた、夏妃(かひ)っていう絶世の美女がいるんですよ。もしかしたら、リアル叶姉妹のお姉さんかもしれないすねえ。

堀田 海音寺潮五郎さんも、一種の化け物だ、という筆致で描写をなさっていましたよね。さすが傾国の美女の本場です。

 僕がもしも昔に生まれていたら、絶対に厄介叔父ですね。長男が家を継いで、僕は婿養子にもはいれず、厄介者としてヒッキーぐらし。貧乏だから身の回りを世話する床上げの女性なんかはあてがってもらえず、そのうちに頭がおかしくなって、さらに奥深くの座敷牢につながれるんです(涙)。

本郷 女性史研究者の人に「生まれ変わったらなにになりたい?」って訊くと、花魁(おいらん)って答えたりする人がいるんですよ。バカかっ! と思うんだけど(笑)。だって、平均寿命が25歳ですよ? めちゃめちゃダイハードですよ。楽しくエッチできるような環境じゃない。

堀田 確かに、花魁が成り上がって大遊郭主になった、なんていう『女帝』みたいな話は聞かないですねえ。

本郷 ないです。みんな、あっという間に死んでしまう。梅毒もあるし気の毒ですよ。今日び江戸の町を掘ると、やたら黒ずんだ骨が出てくるらしいんだけど、どれもこれもみんな梅毒なんだそうです。罹患率はめちゃくちゃ高かったらしい。

 ただ江戸時代は恋愛結婚じゃなくて見合い結婚が主流ですから、顔のいい女性の集まる遊郭は繁盛したといいます。

本郷和人

 1960年、東京都生まれ。東京大学史料編纂所准教授。「武士から王へ―お上の物語」(ちくま新書)、「天皇はなぜ生き残ったか」(新潮新書)などの著書のほか、「センゴク バトル歳時記」(講談社)などの編著書もある。アカデミズム界の気鋭でありながら、娯楽領域でも活躍する歴史学者。近刊は「武力による政治の誕生」(5月6日刊、講談社選書メチエ)。


堀田純司

 1969年生まれ。作家、編集者。編集者としては「吉田自転車」「えの素トリビュート」「生協の白石さん」などの書籍を企画編集。ライターとしては「萌え萌えジャパン」「人とロボットの秘密」「自分でやってみた男」(講談社)などの著作がある。哲学や政治経済、「体験型映画紹介」など、取り上げる範囲は幅広い。近刊は7月に「生き残る専門誌」(仮)が講談社より発売予定。


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