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ボランティア情報がない?現場ルポ・被災地支援とインターネット

» 2011年04月26日 20時59分 公開
[藤代裕之,ITmedia]

大震災の情報源としてインターネットが活用されているが、被災地からネットで発信される情報はあまりに少ない。震災被害はこれまでの経験と想像すら超えており、ネットにおける被災地支援、情報発信も従来のノウハウが通用しにくい状況だ。

ブログ「ガ島通信」などで知られる藤代裕之さんは現在、内閣官房震災ボランティア連携室と連携している民間プロジェクト「助けあいジャパン」に関わっている。ネットを使った被災地支援の「現場」では何が起き、何に直面しているのか。ネットという手段を持つるわたしたちには何が求められているのだろうか。震災とネット、情報を考える、マスメディアには掲載されにくい「現場」からの現在進行形のルポとして、藤代さんに随時報告していただきます。(編集部)


▼その1:「情報の真空状態」が続いている

▼その2:できる範囲でやる──ボランティア情報サイトの立ち上げ

▼その3:「ありがとうと言われたいだけのボランティアは 必要としていない」

▼その4:ターニングポイントになった夜

▼その5:チームを作る 誰がDBを作るか、プロデューサーは誰か

▼その6:有用性と実装スピードの両立 「とにかくこれでやらせてくれ」

▼その7:データベースは5カラムで設計 学生チームが入力を始める

▼その8:Yahoo!チームが訪ねてきた データベース情報の利用が始まる

 ボランティア情報ステーション(VIS)の役割は、各団体のブログに点在するボランティア情報を集約し、ポータルサイトなどにデータ提供して多くの人に利用してもらうことだ。ネットで収集した情報に加えて、紙情報も収集しようと都内のボランティアセンターや社会福祉協議会を調査した。そこで「紹介できるボランティアはない」という事態に遭遇する。

ボランティア情報がない

 ボランティア活動の中心である区民館やコミュニティセンターなど地域の公共施設に行くとチラシが置いてあるが、Web化されている情報はわずかだ。ボランティア情報は紙で、ネットではその一部しか公開されていないのではないかと予想していた。

 VISの活動が軌道に乗ってきたこともあり、都内の公共施設で紙情報がどのくらいあるか調査を行った。これは、VISが一般のボランティア希望者へ情報を提供していることもあり、どのような情報環境に置かれているのか調べておく意味もあった。

photo ボランティア募集がないことを知らせるチラシ

 全てを見たわけではないが、スタッフからの報告は「ボランティアはないとのこと」「登録だけは行っています」という状況だった。該当エリアに本部を置くNPOやNGOからの情報もない、東京ボランティア・市民活動センターに問い合わせるように伝えるだけ、という窓口もあり、ボランティア情報の提供窓口としては機能していなかった。

 一方で、説明会や登録会を実施すると満員になるほどで関心は高いとの情報も入ってきた。神奈川では、ボランティア登録には700人以上の参加があり、埼玉県では1次避難所の支援のボランティア受付に早朝から人が並び、時間前に登録が終了していた。

 「何か貢献したい」というボランティア機運の盛り上がりに対して、活動の場を紹介できない状況になっていた。VISにもボランティアを募集すると人が殺到し、掲載をやめてほしいという依頼が届くようになっていた。ボランティアが活動できるところが少なく、ボランティアを募集すると問い合わせが多すぎて対応ができなくなり、情報を出すのをやめるというマイナスのスパイラルが起きそうになっていた。

ボランティア受け入れすら難しい被災規模

 なぜ一般のボランティア情報が少ないのか。

 これまでボランティア団体や社会福祉協議会(社協)、ボランティアセンターなどと縁遠かったために当初は分からなかったが、VISの活動を通じて次第に理由があることが分かってきた。それはボランティアを取り巻く構造的な課題でもあった。

 まず、被害が甚大でこれまで対応してきた範囲や規模を大幅に超えていたことによる機能不全があった。

 ボランティア活動は、ボランティア団体だけで行っているわけではなく、自治体や社協の職員が不可欠だが、今回は職員や庁舎・事務所が被災していた。その上に、物資や人の受け入れや情報把握といった作業によって「現場化」し、コーディネーションの機能が失われてしまっていた。スタッフが訪ねたある都内社協では、一度目は「ボランティアはない」といわれ、二度目は「被災者受け入れで忙しい」と対応してもらえなかった。

 活動するための条件が厳しいということもある。

 被災地では津波被害で、街自体が壊滅状態の地域もある上、車が利用不能になり、ガソリンも不足気味で、一般ボランティアが現地に入っても移動手段の制約や宿泊場所、食事確保が難しい状態が長く続いていた。阪神淡路大震災では西宮市まで鉄道があって大阪からアクセスできたし、新潟県中越地震でも新潟市が機能していたが、東日本大震災では被災地が青森県から福島県、千葉県、茨城県にも広がっており、面として広範囲の上、鉄道・空港・道路が寸断され、拠点となりえた仙台ですらアクセスが厳しかった。

 そんな中で、医師や保健師などの専門的スキルを持ったボランティアか、自己完結型と呼ばれる、宿泊場所や移動手段を自分で確保できるボランティアでなければ活動できないといった情報が広がっていった。後者は、普段は海外援助などを行っているNPO・NGOが担っていた。社協やボランティア団体の中には一般ボランティアなど必要ないとあからさまな受け入れ拒否を行うところまで出ていた。

 また、インターネットでの情報発信やデータベースの登録によるポータルサイトへの情報提供の必要性もあまり理解されなかった。震災によってボランティア熱が高まっているが、普段はボランティアに参加する人はそう多くない。社会福祉協議会は、地域内の団体とのやりとりで、その団体は支援者らとの情報のやり取りをしていれば十分だった。

現地から「ボランティア足りない」との情報が

 一般ボランティアは必要とされていないのではないか……落ち込むスタッフを力づけたのは現地から入手した情報だった。

photo ボランティア不足を報じる石巻日々新聞

 宮城県石巻市の地域紙・石巻日々新聞の4月5日付1面は「災害ボランティアセンター 人手まだまだ足りず」の見出しでボランティアが不足していると報じていた。

 石巻はボランティア受け入れが大規模に行われている地域として知られている。石巻専修大学と隣接する陸上競技場にボランティア拠点が設けられ、市内各地でのボランティア活動に出かけていく。鉄道は不通になっていたが、高速があり、仙台市までの路線バスも出ていた。記事によれば4月4日までに1500人以上が全国から訪れて活動したという。それでも足りないと記されていた。

 一般ボランティアをバスに乗せ、被災地で片付けや泥除去を行うボランティアバスが各地の社協や団体によってボランティアバスが活発になるのは4月中旬以降になっていた。

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