大震災の情報源としてインターネットが活用されているが、被災地からネットで発信される情報はあまりに少ない。震災被害はこれまでの経験と想像すら超えており、ネットにおける被災地支援、情報発信も従来のノウハウが通用しにくい状況だ。
ブログ「ガ島通信」などで知られる藤代裕之さんは現在、内閣官房震災ボランティア連携室と連携している民間プロジェクト「助けあいジャパン」に関わっている。ネットを使った被災地支援の「現場」では何が起き、何に直面しているのか。ネットという手段を持つるわたしたちには何が求められているのだろうか。震災とネット、情報を考える、マスメディアには掲載されにくい「現場」からの現在進行形のルポとして、藤代さんに随時報告していただきます。(編集部)
▼その1:「情報の真空状態」が続いている
3月15日の午後3時30分、「東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)『災害ボランティア情報』まとめサイト」(現在は助けあいジャパンボランティア情報ステーションとなっている)が立ち上がった(当時のニュースリリースPDF)。ボランティア情報のまとめサイトをつくろうとツイッターで呼びかけてから8時間、協力してくれる有志との作業によってwikiシステムを使って情報提供が始まった。
「ボランティアのまとめサイトを作ろう」。午前7時30分すぎ、Twitterで呼びかけたところ、エンジニアやデザイナー、研究者、学生など数人が集まった。これまでの勉強会などで知り合った人もいたが、実際に会ったことがない人もいた。まず、Facebookにグループを作り、チャットで議論を行いながら、無料のwikiサービスを使ってテストを行った。
wikiを選んだのは、シンプルで見やすいインタフェースだからだ。企業サイトやキャンペーンで利用するにはwikiは適さないかもしれないが、災害のような非常時にはリッチなインタフェースは必要ない。さらに携帯電話に対応していたのも重要な要素だった。スマートフォンの利用者が増えているとはいえ絶対数は多くない。
情報を入力する側としても、編集の自由度が高そうなところは魅力だった。Web開発を担当したことがあれば、リッチなインタフェースや高度な技術、内容の詰めなどを行いたくなる気持ちは分かるが、1日遅れれば、情報を待つ人への提供が1日遅れてしまう。なるべく早く、やれるところからやるのが大切になる。
wikiのシステムは使ったことがなく苦労した。結局、集まったメンバーに助けてもらいながらの作業となってしまった。集まってくれた人たちにエンジニアや、ネットワーク管理者、Web制作の仕事に携わったことがある人などが多かったのが功を奏した。また、Web上からの情報収集には、代表運営委員を努める日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)の学生運営委員に参加してもらうことにした。
集まった人々は、編集者や学生が、情報を収集、整理し、グラフィックソフトが使える学生はバナーをつくり、エンジニアや理系学生はwikiがより見やすくなるように、日々アップデートを繰り返し、自然と役割分担が行われていった。
ボランティア情報を紹介するサイトといっても、立ち上げる前に考えることはある。
まず、主な利用者(顧客)が誰なのかということ。「何かやりたい」「貢献したい」という気持ちは大切だが、誰のために、何のためのサイトなのかということは、通常ビジネスでサイトを立ち上げる際と同じように考えておく必要がある。目的に合わせてどんな情報を載せるのか、そして顧客(ユーザー)にどのように役にたつのか。
インターネットでできること、できないことも考えておかなければならない。ネットは魔法の杖でなく、できる範囲は限られる。さらに、ボランティアである以上、日常生活やビジネスとのかかわりに中で、時間がどれくらいあるかも考えておきたいところだ。
被災地ではネット環境は寸断され、携帯電話どころか、紙によるコミュニケーションも難しい状況のなかで、被災地を直接支援することに対して、現地に行かない情報ボランティアの立場では無力であるということ、そしてネットだけを使っている以上は現地には情報が届かない可能性があること。
これらを踏まえた上で、まとめサイトは、ボランティアをしたいと考えている被災地以外の住人(主に東京などの都市圏)を利用者と想定し、そこに適切な情報を届け、情報のミスマッチを防ぐことを目的とした。すでに震災から4日がたっていたが、現地からのネット情報が少なかったことも確認した。ほかに同種のサイトがあったら情報が分散してしまうが、見当たらなかったためだ。
サイトの目的は『ボランティアをしたいという方と募集している被災地を結びつけること』と決めた。そしてサイトには、
ボランティアはマスメディアで紹介されている被害の大きな地域だけでなく地元でできることもあります。そのためサイトでは地元でできるボランティアの情報も掲載しています。マスメディアで注目される被災地にボランティアが殺到するのを避け、自分のできる範囲で貢献していただけると幸いです。
──と趣旨を掲載した。
マスメディアは、被害が大きな地域をクローズアップする。これにより、忘れられた被災地がでることがある。例えば、関東近郊でも千葉県浦安市の液状化被害などは、当初は大きく扱われることがなかった。だが、最近では地方自治体や各地の社会福祉協議会がホームページやブログを持ち、Twitterでも発信している場合があり、状況が整えばボランティアの情報が出てくると考えた。
サイトでは、人手によって、ホームページやブログに掲載されている各地の社会福祉協議会やボランティアセンター、NPO(非営利団体)の情報をネットで検索し、情報整理してサイトで発信することにした。ボランティア関係者のアドバイスも受け、団体の活動状況も確認することにした。
扱うのはボランティア情報だけ。テレビやソーシャルメディア上で発信されている「●●が足りません」という情報は掲載せず、受け取り手がはっきりしている情報に限り、人手でチェックすることにした。これは紙おむつや幼児用の洋服、衣料品といった物資が現地で不足しているとの情報がチェーンメール化した新潟県中越地震の際のミスマッチへの反省があった。
被災した自治体は、一時的に組織的な動きができなくなる。受け入れ態勢が整わないままに、物資や人が行くことが迷惑につながっていく。家が被災しているときに「おむつが足りないな」とつぶやいた一言によって、翌日玄関に大量のおむつが届くという状況を想像してもらいたい。たとえ善意であっても、物や人が押しかければ、それに対応する人も必要だ。
目的と情報に加え、もうひとつ大事なのはスケジュールがある。
ボランティア活動でやっている以上、終わりを想定しなければいけない。ビジネスで始めて人気になったサイトであればうれしい悲鳴だが、ボランティアの場合は日常の生活に支障をきたすようになってしまう。
中越地震での情報ボランティアの流れは、震災直後から掲示板などに現地情報がアップされ、それを地域別に整理するブログが登場した。有志によって運営されていたこのブログは1週間で活動を停止。その後ボランティア団体やボランティアセンターのブログに切り替わり、情報が整理されていくという流れだった。
今回の災害は被害が甚大とはいえ、2004年からネットはさらにユーザーを増やし、ソーシャルメディアも使われるようになった、現地からの情報が少ないとはいえ、1週間以内には、ほかのサイトが立ち上がり統合されていくのではないかと考えていたが、その予想は大きく外れることになる。
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