ITmedia NEWS >

在宅勤務制度の導入、まずはトライアルで始めよう 日本HPの先行事例に学ぶテレワークは日本企業を強くする!(2/3 ページ)

» 2011年07月29日 08時00分 公開
[五味明子,ITmedia]

在宅勤務を受け入れやすくするフリーアドレス制

 同社がすんなりと完全在宅勤務制度を運用できている背景の1つに、大島本社における「フリーアドレス制の徹底」が挙げられる。

 日本HPはこの5月、江東区大島の新社屋にて新たに業務を開始した。八王子と昭島の2事業所を除く、都内8カ所のオフィスで働いていた従業員約4000人が新社屋に集まったことになる。新社屋は地上9階建ての広々としたスペースが印象的なオフィス環境だが、全社員数分のデスクは用意されていない。ここでは、誰もが社内のどこでも好きな場所で仕事をすることができるのだ。逆に言えば、役員や固定席での業務をどうしても必要とするごく一部の社員を除き、ほぼすべての社員が固定席をもたない“社内ノマドワーカー”なのである。

 大島本社では、3階から7階が従業員用のオフィスフロアとなっている。空いているデスクを見つけ会社支給のノートPCを開き、電話にログインする。これでメールも電話(IP電話)も受け取れるし、会議や打ち合わせをリモートで行うことも可能だ。また、オフィス内は全館無線LANが利用でき、電源の口も社内の至るところにあるので、オフィスフロア内はもちろん、8Fのカフェや1FのミーティングスペースでノートPCで仕事をしている社員も多い。

 このフリーアドレス制は、移転以前の各オフィスでも実施されていたが、大島の新社屋ではさらに徹底して全社員レベルで浸透している。「オフィス内のどこにいても仕事ができるという環境が当たり前になっているので、在宅勤務もその延長、ノートPCの持ち出し先が社内から社外に広がったくらいの感覚だと思います」と高橋氏。フリーアドレスという下地が在宅勤務環境のスムースな導入に果たしている部分は大きいようだ。

江東区大島にある日本HPの新社屋 江東区大島にある日本HPの新社屋

IT環境で重要なのはコラボレーションツール

 日本HPは世界1、2のシェアを争うITベンダの日本法人である。従って、在宅勤務環境のインフラもさぞかしリッチなのかと思いきや、「在宅勤務にそれほど特別なインフラは必要ない」(高橋氏)とのことだ。むしろ、生産性維持のためにはハード/ソフトともに社内で使い慣れている環境をそのまま在宅でも使えるようにすべきだという。

 「当社では、会社支給のノートPC、VPN、それからHP Virtual RoomsやOffice Communicatorなどのコラボレーションツール、データ共有のためのSharePointを基本システムにしています」と高橋氏。私物のPCからのアクセスや通常のインターネット回線からのアクセスを許可する企業もあるが、日本HPはポリシー上、これを許可していない。

 在宅勤務環境においてはコミュニケーション/コラボレーションツールがより重要だと高橋氏は言う。在宅勤務は一般に「労務管理が難しい」とよく言われる。もっと言えば上司、人事担当者、あるいは経営幹部が「見えないところで従業員がサボっているのではないか」という疑いを捨てきれないのだ。従業員にとっても疑われながら働くのは当然、いい気持ちがしない。

「在宅勤務を導入する場合、オフィスで働く以上に組織内でコミュニケーション/コラボレーションを意識的に図る必要があります。フェイス・トゥ・フェイスが重要なのは在宅勤務でも変わりませんが、顔を見なくても、いつでもチャットや電話でダイレクトに連絡を取れる状態にしておくなど、双方の努力が必要です。当社では、経過報告などは在宅勤務時のほうがマメになされているという例もあります」(高橋氏)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.