「ジャズで聴く初音ミク」。ジャズ専門誌「JAZZ JAPAN」の最新号である2011年11月号(Vol.15)に、こんな記事が掲載されている。同誌の電子版にはボカロPによるジャズ作品の「歌ってみた」版まで収録。いったいここで何が起きてるのか?
JAZZ JAPANは、元をたどれば60年以上の歴史を持つ老舗ジャズ雑誌「スイングジャーナル」。同誌の休刊後、その意志を継いで新創刊された雑誌だ。年配の人向け、硬派なイメージがあるジャズ専門誌がなぜミクの特集を……というわけで、JAZZ JAPAN編集部を訪ねて、この記事を担当した佐藤俊太郎さんに話を聞いた。
ボカジャズ特集記事のきっかけとなったのは、8月末、友人との雑談から。ニコニコ動画で「ボカジャズ」(VOCAJAZZ)というタグが生まれており、このジャンルのコンピレーションアルバムも出ていることを知った。
9月3日に、ボカジャズのライブがあるというので見に行ったら、年齢層が普通のジャズライブとはまったく違って、20代が中心。機械のVOCALOIDをどんなふうにライブで使うか興味があったが、演奏自体はオーソドックス。しかしロックっぽい盛り上がりが新鮮だったと佐藤さんは話す。
YouTubeではジャズ愛好家によるスタンダード曲の演奏が多く見られるが、ニコニコ動画では、独特な「ニコ動スタンダード」がよくプレイされている。レベルもさまざまだ。「これには引いちゃう人もいるかもしれませんね」と佐藤さんは笑う。
「スイングジャーナル時代とは変わってきて、固定的なファン以外にも広がり、新しいタイプの音楽に抵抗のない人も多い」(佐藤さん)というJAZZ JAPAN読者に、「人間でないものがジャズを歌うこと」はどう受け入れられるか。
ともあれ、編集長にもOKがとれたので、企画は進められた。今回は3ページと扱いはまだ小さいが、新たな読者獲得のための切り口として、さらなる展開も考えている。
10月31日に、少し遅れて発売された電子版「JAZZ JAPAN電子書籍版Vol.14-15合併号」ではさらにおもしろい試みがある。
佐藤さんが行ったボカロジャズライブで中心となっていたのが、nicaさんと喜兵衛さん。記事ではこの2人がボカロジャズシーンについてコメントしている。nicaさんはプロのジャズシンガーだが、ボカロ界では「となりちゃん」の名前で「歌ってみた」を投稿し人気だ。喜兵衛さんはVOCALOIDを使った楽曲を制作し、投稿するボカロPで、ボカロジャズのライブやCD制作でも活躍している。
電子版には2人による動画メッセージ、さらには喜兵衛さんによるボカロオリジナル曲をnicaさん(となりちゃん)が「歌ってみた」バージョンも収録されている。これらは電子版エクスクルーシブだ。
紙版の1000円に対し、電子版はコンテンツは限られるとは言え、315円(PayPal経由で支払う)と気軽に入手できる。iPhone、iPadならばiBooksアプリで視聴できる。EPUB形式ならばPDFとは違って、レイアウトは変えずに文字を拡大して読めるから、年配の読者にも使いやすいというメリットもある。「動画も埋め込めますし」と佐藤さん。(関連記事:見開き対応のEPUBで『JAZZ JAPAN』の電子版を制作しちゃいました!)
伝統のある音楽雑誌と新しい技術を手にしたミュージシャン、ファンとの出会い。評判がよければ「次」もありそうだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR