今年の夏、セガ(東京都大田区)の男子トイレでは、かつてないゲームの開発が佳境を迎えていた。店舗用電子POP「トイレッツ」。男性用小便器に取り付け、スピードセンサーで計測された尿の勢いや量で遊ぶゲームで、広告表示ができるというもの。10月に居酒屋「養老乃瀧」チェーン40店で先行導入されると、Twitterやブログで「セガの本気」「俺たちのセガ」と話題を呼び、プレーする男性が続出。しかし、構想から5年、11月21日の正式発売までには、ゲームの老舗セガが経験したことのない数々の困難が待ち受けていた。
「女性には理解されないかもしれませんが……」と切り出したのは、トイレッツを発案者で開発チームチーフディレクター、十文字新さん(34)。「ずっと昔から、男の子にとって人生で最初に握るコントローラーだと思っていました。子供の頃、誰もが積もった雪の上に尿で文字を書いたことがあります。これは、コントロールして遊ぶゲームとの根源的な出合いではないか。男の人だったら全員共感してくれると思い、企画として提案してみたところ、上司もノリノリになって作り始めたのがトイレッツでした」
これまでゲーム機の販売先といえば、家庭やゲームセンターが一般的。「セガは遊びを作る会社。飲食店や映画館などエンターテイメントのあるいろいろな場所に遊びを提供したい、日常生活をもっと楽しくしたいという気持ちもあった」という。
3年前、まずは試作機を社内の男子トイレに設置してみた。男性社員からは「楽しい」との声が寄せられたが、最初の壁にぶつかる。「ゲームが楽しいというだけでは、ただゲーム機を売る従来のビジネスと同じ。それに、ゲームセンター以外の場所でゲーム機を買うという文化はありませんでした」と開発チームプロデューサーの町田裕孝さん(41)は話す。
ここから、町田さんと十文字さんが異口同音に「何度も心が折れそうになった」と語る日々が始まった。セガでは、誰もトイレに置くゲーム機を作ったことも売ったこともない。販路を開拓するためには、どうすればよいのか。「せっかくモニターがあるし、電子POPで情報を伝えられないかという方向にシフトしました」。トイレッツは、尿の勢いを前回使った人と競う「鼻から牛乳」などのゲームが楽しめる一方、最後の画面に広告が表示されるようになった。
ゲームと広告メディアの両立を目指し、新たな市場への進出。開発チームは2010年8月、東京で開催された「居酒屋産業展」にトイレッツとデモンストレーション役の小便小僧、その名も「ション太」君を引っさげて乗り込んだ。しかし、「ビールメーカーが試飲ビールを配ったり、フードメーカーがパスタを試食させたりしている中、僕たちはボタンを押すと小便小僧がおしっこをする展示をしていました。すごく違和感があって……」と苦笑する町田さん。「インパクトがあって面白いとは言って頂けるのですが、お客様もどう使っていいのかイメージできない。商談にまではなりませんでした」
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