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もの言う人々2011ネットの風景

» 2011年12月29日 18時09分 公開
[ITmedia]

 「まったく盛り上がらない」「最悪」「お勧め出来ない駄作以下の何か」。Amazon.co.jpの「機動戦士ガンダムAGE」Blu-ray Discのページには、同作品を酷評するレビューがあふれている。

photo 「機動戦士ガンダムAGE」BD版のレビューページ

 10月にスタートしたガンダムシリーズの最新作。BDソフトの発売は来年の2月10日だが、既に「レビュー」は100件を超す。その7割が「星1つ」だ。

 最も評価を集めているレビューは「ある意味これから先ガンダムというコンテンツでビジネスなりマーチャンダイジングをしようという時に『反面教師』としてすごく参考になる作品だと思います」と手厳しい。

 以前にも「アイドルマスター2」や「ドラゴンクエストIX」を酷評するレビューがAmazonに殺到、“炎上”する事態があった。共通するのは、熱いファンが多い作品ということ。定型文による返答しか期待できないメーカーの意見受け付けフォームよりも“手応え”のある場として、もの申す人々がAmazonの販売ページを訪れる。

2011ネットの風景

「美優ちゃんおはよう!1日よろしくね!」。自ら命を絶ったタレントのブログには、今もコメントの書き込みが絶えない。

来店したビビる大木さんについて「芸能人振りやがってマジ腹立たしい」と店員がツイート。ビビる大木さんは「ただただ悲しい」──Twitter上での“炎上”が多発した1年だった。


 Amazonのページは商品への批判にとどまらず、企業そのものに対する抗議の矢面に立つこともある。

 8月には、「韓流」騒動のあおりで花王の洗剤などの販売ページに商品を酷評するレビューが次々と投稿される事態が起きた。サントリーは、Webサイトで「日本海」と「東海」を併記していたとして、ミネラルウォーターの販売ページなどに酷評レビューが相次いで投稿された。

 「自分の意見をはっきり言わない」などと言われてきた日本人。だが、少なくともネットでは、個人がはっきりと自分の立場や意見を主張することには慣れてきたようにも見える。

 3月11日の東日本大震災は、多くの人がTwitterなどのソーシャルメディアで情報を発信していくきっかけになった。これに続く東京電力・福島第1原子力発電所の事故をめぐっては、多くのユーザーが原発への賛否を鮮明にし、それぞれの立場からTwitterで激しい論戦を繰り返した。

 大震災と原発問題は生活者の肌感に直接訴えかけ、ユーザーに対し自分が事態の当事者であることを実感させる。不安もあった。誰もが何かを言わずにはいられなかった。そしてそこにはTwitterがあり、同じ思いを抱える大勢の人がいた。

 「当事者であること」は、さまざまな事象に対しユーザーを敏感にした。熱心な情報発信の波の一方で、Twitterでは安易な非公式RT+コメントでウソ情報が拡散するという事態も相次いだ。

 11月には、若くして亡くなった男性が「原発事故の犠牲者」などとネットで取り上げられた。根拠と呼べるものはなかったが、多くの人が確認せずに2ちゃんねるまとめサイトの記事URLをTwitterで流した。

 男性の友人はTwitterで「原発の犠牲者」説を否定。「反原発を訴えるのは勝手ですが、友達の死を捏造してまでやるヤツが腹立たしいです」と憤慨した。

 暑さが続く8月下旬。福島第1原発のライブカメラに、防護服姿でカメラに向かって指をさす人物が現れた。男性は右手で上空を指し、ゆっくり回してから、カメラを指さした。それが何を意味するのか、彼が誰なのか、ネットでは憶測が飛び交った。

 10日ほど後になって、本人を名乗る人物がネットに現れ、Webサイトでその意図を説明した。「観察するという方向に指さすという反対の方向を向けたい」「観ることと差別、差別と原発が切り離せない関係にあると考えた」という。

 彼が指をさした先には、ライブ画面を見つめる人々がいた。その指先はモニター越しの“当事者感覚”を真っ直ぐに突いていた。彼は11月にサイトを更新し、こう書いた。

 「東京電力や政府の記者会見を見てただ人格攻撃に勤しんだり溜飲を下げるために利用できてしまうのは、YouTubeを見ても自分が指さされたとは思わない距離感から来るんだと思います」

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