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ステマは「犯罪的」──専門企業に聞く、あるべきバイラルマーケティング

» 2012年01月30日 16時29分 公開
[榊原有希,ITmedia]

「食べログ」をきっかけに、ネットで炎上中のステルスマーケティング騒動。店舗や商品が紹介されたSNSやブログ、掲示板に対し、「ステマでは?」と疑惑の目が向けられ、口コミ広告を行う企業へのバッシングが起こるなど、消費者の間では疑心暗鬼が広がっている。業界では最も厳しい米国並みの基準でバイラルマーケティングを手がけてきた「WillVii」(東京都渋谷区)ですら、例外ではない。日本では従来から、口コミ広告とサクラ、やらせ広告の境界線が曖昧だったことが背景にあるが、「ステマは犯罪的な行為」と断言する塚崎秀雄社長に、ネットにおけるバイラルマーケティングのあるべき姿を聞いた。

 「ステマとは、消費者に対し、依頼主との関係性の明示がないことです」と指摘する塚崎社長。通常の広告から悪質なステマまで、4つのパターンがネットには混在するという。「誰が見ても関係性が明らかで、文章などの内容も完全にコントロールされている通常の広告」と「関係性が明らかで、内容もブロガーやユーザーに任されているバイラルマーケティング」については、問題がない。

photo 米国並みに厳しいWillViiの独自ポリシー(一部)

 今、批判を受けているのは、「関係性の明示がなく、内容もコントロールされているステルスマーケティング」だ。「食べログでやらせ業者が行った例は、これにあたります。単にお店や商品をほめるだけでなく、競合に対するネガティブキャンペーンのケースもある。ステマは最も悪質で、犯罪的行為だと思っています」と塚崎社長。また、「関係性の明示はないが、内容はブロガーやユーザーに任されているもの」も、消費者から「ステマ」と思われても反論できないグレーゾーンだ。

 米国では、数年前からネット上のステマが横行、炎上したことから、広告代理店などで構成する業界団体「WOMMA」(口コミマーケティング協会)が2009年、依頼主との関係や金銭の授受の明示を定めたガイドラインを発表している。WillViiも同年からWOMMAに参加、その厳しいガイドラインに準拠した独自のポリシーに基づき、家電製品やゲームなどのジャンルでブログによるバイラルマーケティングを実践してきた。「業界で最も厳しい」と他社からも評価される方法は、具体的にどのようなものなのだろうか。

 WillViiが運営するレビューサイト「みんぽす」に寄せられたブログ。デジタルカメラやテレビなどの商品について、ブロガーが記事を書いているが、「このレビューで使用されている商品は株式会社WillViiが運営するレビューサイト『みんぽす』が無償で貸与しています。本レビュー掲載は無報酬です。また、WillViiは掲載内容に一切関与していません」といった定型文が必ず掲載されている。

 「定型文の記載だけはコントロールしています。上がってきたレビューは記載漏れがないよう、すべて迅速にチェックしています。定型文の掲載や固有名詞の訂正は求めますが、レビューの内容についてコントロールは一切、していない。ブロガーの方には金銭の報酬を支払っていませんから、あくまで趣味で参加してもらっています。辛口の方が多いですし、ネガティブな意見が出ない商品はありませんが、消費者の方には中立の意見として参考にして頂けると思っています」。また、商品によっては、「無償でもレビューをしたい」とブロガーに思われるレベルでなければ、「通常の広告の方が向いているのでは」とメーカーからの依頼を断るケースもあるという。

photo 関係性を明示した定型文が掲載されたブログ

 商品レビューをするブロガーになるためにも、厳しい審査がある。商品を提供するメーカーの利害関係者でないことや、高額商品を貸与する場合は免許証などの身元確認が必要条件になっている。「他社では『ブロガー10万人による口コミ広告ができます』というところもあるようですが、うちの場合、ポリシーを理解してもらうためには、その人数は無理。ネットで流行を起こすことではなく、消費者への情報提供が目的なので、登録ブロガーも数百人です」

 こうした方法にこだわる理由を、「自分自身がメーカー出身で、商品を作っていたから」と塚崎社長は語る。「商品をきちんと評価してほしいと思っていますが、世の中は情報過多と言いつつ、実は情報飢餓。商品の機能が複雑化しているのに、正しい情報が足りないまま、値段の勝負になってしまっている。しかし、料理でも素材や調理について丁寧な説明があるかないかで、味が変わります。知識によってその商品の価値や満足度は上がります」

 今回のステマ騒動は、バイラルマーケティング業界にとってかつてない試練ともいえるが、「おかげで、クライアントや広告代理店の意識は高まっています」と塚崎社長。「もし議論が進み、WOMMA並の厳しいガイドラインが国内で導入されたとしても、困る業界はないはずです。この問題を契機に、ユーザーや消費者にもわかるよう、関係性がきちんと明示された口コミ広告が主流になってほしいと思っています」

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