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コンテンツ販売の未来は――津田大介さん、佐々木俊尚さん、ドワンゴ川上会長など議論(1/2 ページ)

» 2012年08月21日 21時43分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 メールマガジンや電子書籍など、個人がテキストを有料販売できるプラットフォームが増え、無料が当たり前だったネットコンテンツに課金モデルが浸透し始めた。コンテンツとプラットフォームの未来はどうなるのか――8月21日、「ブロマガ」でテキストの有料販売に参入したドワンゴが都内で開いた発表会では、ブロマガに参加する著者によるディスカッションが行われた。

 ジャーナリストの津田大介さんが司会を務め、佐々木俊尚さん、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」著者で放送作家の岩崎夏海さんと、ドワンゴの川上量生会長、夏野剛取締役が参加。課金のあり方や、著者とファンとのコミュニティの作り方について議論を交わした。

画像 左から夏野さん、津田さん、佐々木さん、岩崎さん、川上さん。ディスカッションは、東京・六本木のイベントスペース「ニコファーレ」で行なわれた

有料メルマガはなぜ、最近になって成功したのか

 日本のメールマガジンは1997年にスタートした仕組みで、「ネットが始まって以来まったく進化していないメディア」(川上さん)だが、堀江貴文さんが先鞭をつけ、課金プラットフォームとして成功させた。「堀江さんがメルマガ市場そのものを変え、後にいろんな人が続いて一気に市場ができた」(津田さん)

 有料メルマガ躍進の背景には、Twitterなどソーシャルメディアの普及がある。「これまでの有料コンテンツは、ネットの中に埋もれてしまうという問題があったが、Twitterなどを使い、認知を失わないかたちで有料コンテンツが出せるようになった」(川上さん)

画像 佐々木さん

 佐々木さんは、「ほかに課金モデルがなかったのでメルマガをやっている」と打ち明ける。「メールというテクノロジーは古い。メールではない形で、電子書籍をプッシュ配信できるのが理想形」とし、米国ではKindle StoreやiBookstoreがその役割を果たしていると説明。「ブロマガ」にも同様な進化を期待する。

 ブロマガが目指しているのは「プラットフォームのプラットフォーム」だと川上さんは言う。「メルマガはプラットフォームだったから成功した。AmazonやAppleのサービスは基本的にコンテンツの切り売りで、プラットフォームはプラットフォームホルダーが握っている。だが、ネット時代のコンテンツホルダーは、プラットフォームを取りに行くべき。ホームページやブログを誰でも作れるようになったのと同様に、プラットフォームを手軽に作れるプラットフォームがあれば、みんなが幸せになると思う。ブロマガは、それを目指している」(川上さん)

 App Storeなどグローバルプラットフォームの手数料率は30%が標準だが、まぐまぐは50%を取っており、津田さんと佐々木さんは「ありえない」と声をそろえる。「コンテンツは作る人、見る人の2者しかいない。作って見せて売るだけだけならGumroadやDropbox、PayPal決済でいい。両社の間にいかに付加価値を与えるかがプラットフォームの仕事。App StoreやKindleの料率は30%と大きいが、市場支配力が強い。ドワンゴにはそこまでの市場支配力がまだないが、動画とか生放送という付加価値を与えられるのは大きいと思う。新しい市場を形成する可能性は高いのではないか」(佐々木さん)

著者とファンがコミュニティーを作る時代に

 有料メルマガには「ファンクラブ的な要因がある」と津田さんは指摘する。「成功している人のメルマガを見ると、中身よりは、その人のファンだからと購読されていることが多い」(津田さん)

 ブロマガ開発の背景には、「ネット上のファンクラブができるシステムを作りたいという思いがあった」と川上さんは言う。「みんな、情報の発信者に近づきたいという欲望が大きい。限定されたユーザーに対して何かをやりたい人もたくさんいる。そのためのプラットフォームになればと思う」(川上さん)

画像 岩崎さん

 「はてなダイアリー」の人気ブロガーだった岩崎さんは、8月21日付けではてなダイアリーから撤退し、ブロマガに移行。「はてなに恨みがたまっていた」のに加え、「文章を発信するだけでは飽き足らなくなり、場を作って行かないと追いつかない」という思いが背中を押したという。「小説が好きで、小説について盛り上げていきたいが、既存のプラットフォームではできない。ブロマガがそういうものをエンパワーしてくれるプラットフォームになるなら、今の時流に合っている」

 自らのメルマガを8割方自前で配信し、「まぐまぐ」など既存のプラットフォームへの依存を最小限に抑えている佐々木さんは、ファンコミュニティーの管理も著者が行うべきだと主張する。「ファンコミュニティーの有料化が重要だと思っているが、ドワンゴにしろ、まぐまぐにしろ問題なのは、ユーザー管理をプラットフォーム側が行い、購読者のメールアドレスを著者に教えない点。プラットフォーム側の囲い込みビジネスになっている」。佐々木さんが気にしているのは、「プラットフォームが乗り換え可能かどうか」ということだ。電子書籍プラットフォームの“黒船”として、この秋にKindleが日本に上陸予定。「国産プラットフォームとの間で争いが起き、コンテンツの取り合いも起こるだろう」(佐々木さん)

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