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YouTube広告で暮らす5人家族、mosogourmetさんの“日常”

» 2012年09月05日 12時00分 公開
[本宮学,ITmedia]

 親子5人暮らし。自営業。仕事は“プロYouTuber”――。

photo かわいらしい料理を淡々と作っていく動画が人気に。日本に次いで「タイなど東南アジアの視聴者が多い」という

 東京都大田区の閑静な住宅街。その一角で暮らす伊藤さん一家は、YouTube動画に広告を入れて収益を得る「YouTubeパートナープログラム」の参加者だ。2009年2月に動画投稿をスタートし、10年3月に同プログラムに参加。今では親子5人が暮らすマンションの家賃や食費など、生活費のかなりの部分をYouTubeからの収入で賄っているという。

 アカウント名は「mosogourmet」(妄想グルメ)。これまで料理動画を中心に1000本以上投稿し、総再生数は4000万回を超えている。母が子どもに作るキャラクター弁当やお菓子など、日本家庭の日常的な光景が国内外で人気を呼び、チャンネル登録者2万5000人のうち約6割を海外ユーザーが占めるという。

photo 伊藤元亮さん

 「I made this and it was so good(この料理、自分でも作ってみたけどうまかった)」「I wanna live in Japan(日本に住みたいよ)」――伊藤さんが料理の動画を投稿すると、多くの海外ユーザーから外国語で感想が寄せられる。だが「日本の料理文化を世界に発信したいとか、そういう意図は全くなかった」と夫・元亮さん(44)は断言する。

 大手メーカーを退職し、これまで自営業で室内緑化ビジネスや古物商などを手がけてきた元亮さん。アフィリエイトブログなども手がけ、その一環として09年にYouTubeへの動画投稿をスタート。当初はパートナープログラムに参加することなく、ブログとの連携などを見込んでYouTubeに投稿していた。

photo 初期の“キャラ弁”動画。どれも静止画をつなぎ合わせただけのシンプルなものだった

 初めて投稿した動画は、当時幼稚園児だった娘に妻が作っていた“キャラ弁”だ。デジカメで弁当の写真を撮影し、Windowsの付属ソフト「ムービーメーカー」で編集。静止画をつなぎ合わせて30秒ほどの動画として投稿した。「最初は1日100回ずつ再生数が増えていくだけで嬉しかった。1000回に到達するたび夫に報告したリ……」と妻は振り返る。

photo 料理作りや動画の撮影、編集は妻が担当。当初は「コピー&ペーストも分からないくらい」のPCオンチだったが、投稿していくうちに動画編集スキルは身に付いたという

 その後「1日1件以上のペース」で投稿を続けていく中、1つの転機が訪れた。それまで誹謗中傷を恐れてコメント欄を閉じていたが、ある時“間違えて”コメント欄を公開したまま投稿してしまったのだ。すると「意外とポジティブな感想が多く寄せられ」、ユーザー同士の口コミ効果によって動画再生数も伸びたという。

 「再生数を増やすにはコメント欄が必須だと分かった」と元亮さん。動画の本数が増えてきたことも相まって、チャンネル全体の再生回数は次第に増えていった。2010年3月には、当時審査制だったパートナープログラムに参加が認められた。今ではチャンネル全体で月間平均200万回ほど再生されており「家賃2カ月分は厳しいが、1カ月分なら確実に払える」程度の広告収入があるという。

photophoto 最近の動画では、料理の作り方から完成品までを紹介。国内外を問わず多くのユーザーからコメントや評価が寄せられる
photo 撮影は自宅のキッチンで

 「家族がいるので、普通に生活しているだけで妻が子どもにお菓子とか作るんですよ」と元亮さんは言う。伊藤家では動画撮影を目的として料理をするのではなく、まず家族が食べるために料理を作り、それを撮影してYouTubeに投稿していくというスタイルだ。「娘が幼稚園を卒園してからはキャラ弁をあまり作らなくなった」といい、今では家の中で食べる料理やお菓子の動画を中心に投稿している。

 「YouTubeはわれわれ家族にとって日常。動画にオチがあるわけでもないし、特別なこともしていない。YouTubeならそんな日常を配信することも仕事として成立する」と元亮さん。今後はこれまで並行して続けてきたビジネスを徐々に縮小し、YouTubeの広告収入を生活費の柱にしていきたいと考えているという。

「日本のクリエイターを世界に」――Googleによる支援も

 YouTubeパートナープログラムは、日本では2008年に審査制でスタート。2012年には一般ユーザー向けにも開放され、ガイドラインを順守すれば誰でも自分の動画に広告を入れて収益を上げられるようになった。

 Google日本法人によれば、日本のパートナーの収入額は2008〜2011年の3年間で4倍に向上。mosogourmetさんの他にもインターネットコメディアンのMEGWINさんや、ボイスパフォーマーのHIKAKINさん、メイクアップアーティストのsasakiasahiさんなど、「YouTubeを主な収入源とする」(Google広報部)ユーザーが複数登場しているという。

photophotophoto MEGWINさん、HIKAKINさん、sasakiasahiさんの公式チャンネル(左から)

 Google側もこうしたクリエイターの活動を支援している。2011年には、クリエイター向けに支給金や研修キャンプなどを提供して動画制作スキルを上げてもらう「YouTube NextUp」の第1回を実施。パートナーの中から選んだ10組の参加者を集め、上手な映像の撮り方や著作権関係の知識などをレクチャーしたという。同プログラムは今年も実施予定で、9月3日から公式サイトで参加者を募集している。

 「日本のクリエイターが海外に向けて発信できるよう支援していく」――YouTubeパートナー・オペレーションズの舩越貴之 北東アジアマネジャーは、今年7月に開いた説明会でそう話した。同社は今後、クリエイター1人1人のスキル向上やクリエイター同士のコラボレーションなどを加速させ、YouTube上に優良コンテンツを増やしていきたい考えだ。

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