自民、公明、日本維新の会の3党が5月29日に衆院に提出した児童ポルノ禁止法改定案について、日本漫画家協会が同日、意見書を公表した。検討条項として記載されている、漫画・アニメなど創作作品の規制につながる「調査研究」について、「創作者の表現の自由や国民の知る権利をおびやかす」とし、検討項目を除外するよう強く求めている。
改正案は、児童ポルノ画像などを所持すること自体の禁止、いわゆる「単純所持」の禁止を盛り込み、「自己の性的好奇心を満たす目的」で、児童ポルノを所持した者に、1年以下の懲役または100万円以下の罰金を課す内容。また、検討条項として、「児童ポルノに類する」という漫画やアニメなど児童へのわいせつ行為などへの関連を「調査研究」し、その結果を受けて3年後をめどに「必要な措置」をとることを求めている。
同協会は「本来この法案が目指している、性的被害にあってしまった、もしくはその危険にさらされる恐れのある、実在の児童を守る主旨については全く異論を挟むものではない」との前提に立ちながらも、その対策の一部として、漫画・アニメというフィクションの世界まで規制する可能性が検討条項として盛り込まれていることに「強い反発と疑問を感じざるを得ない」と訴える。
法案では単純所持も規制対象としているため、仮に漫画・アニメなどが対象となった場合、今後創作される作品全般に悪影響がもたらされるだけでなく、過去作品まで規制に抵触してしまうと指摘。ぼう大な量の過去作品について、該当する恐れのある箇所を細かくチェックするという「あまりにもナンセンスな事態」が発生し、単純所持の禁止によって「原稿の廃棄を強要されてしまう」事態を懸念。「いわゆる『焚書』のような事態を強いる法律が、この現代社会で文化的、文明的な施策だといえるでしょうか」と問題提起する。
漫画に限らず、文芸や写真、映像、文章などすべての表現には、「かなり特殊な、立場や嗜好の違う目線で見れば、醜悪で猥雑にしか見えないような表現も、必要悪として存在する」とし、「創作者が時々のテーマに合わせ、適切な表現手段とその素材を自由に選ぶことができるからこそ、作品に多様性が生まれる。この表現に対する寛容さが、その国の豊かな文化の裾野を広げている」と指摘。
児童を守るという「極めて人道的な」テーマだったはずの法案が表現規制に変化しているとし、「わたしたち創作者の表現の自由だけではなく、読者、つまりすべての日本国民の知る権利をもおびやかすことになり、実に恐ろしい戦前の時代の流れが見えて来る」と、戦前の言論弾圧になぞらえて危機感を訴える。
漫画・アニメに対する規制は「不必要な悪影響と大混乱をまねくことは間違いない」とし、漫画・アニメへの規制の検討を盛り込んだ検討項目を法案から除外することを強く求めている。
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