「児童ポルノ禁止法」の改定案が自民党・公明党による議員立法で近く国会に提出されるという。(関連記事:児童ポルノ禁止法改定案、提出迫る 漫画・アニメ表現規制の検討も盛り込む)
この法律の正式名称は「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」といい、1999年11月に施行された。議員立法による制定である。2004年に一度改定され、その後08年、09年、11年にも改定案が提出されたものの衆議院解散のため廃案になっている。今回の改定案はこれまでの3回の改定案を踏まえたものである。
本来この児童ポルノ禁止法の立法趣旨は、第1条で述べられているように「児童に対する性的搾取及び性的虐待」から児童を護ることである。
これ以前は法的に児童を守る方法がなかったことを考えると画期的な法律である。この点において児童ポルノ禁止法の必要性、重要性は十分に理解できるし、むしろ積極的に運用していくべきとさえ筆者は考える。
ところが、今回の改定案(山田太郎議員のWebサイト)を見ると諸手をあげて賛成できない案になっている。すなわち、法本来の趣旨から逸脱して、目的が変わっているのではないかと思える部分が散見できるのだ。
改定案の柱は6つある。1つ1つ見ていこう。
(1)適用上の注意規定の明確化
「『本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用することがあってはならない』と改める」とある。これは次の項目「単純所持禁止」との関連で、単純所持禁止を新設するために設けられたのだろう。単純所持禁止とは、児童ポルノを持っているだけで処罰するというものである。
というのは、単純所持禁止項目を新設することで警察の捜査権を拡大するとの指摘があったからだ。すなわち、捜査のきっかけがつかみにくい事件では、入り口事件として児童ポルノの単純所持を家宅捜索のために利用できる。たとえばマンガやアニメDVD、ゲームを購入したことのある人、携帯電話やPCを持っている人(つまりほとんどの国民)に「あなたは児童ポルノを持っているかもしれないので、家宅捜索する」ということができるわけだ。その過程で、児童ポルノ以外であっても別の犯罪を構成するような証拠が出てきたら、逮捕できる。このような事態にならないために乱用をいましめている。それほど次の項目「単純所持禁止」は危険な条文だともいえよう。
(2)児童ポルノ所持等の禁止
(3)自己の性的好奇心を満たす目的での児童ポルノ所持等についての罰則の新設
いずれも児童ポルノを所持したり、保管してはならない(単純所持禁止)とし、これに違反すると「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」を科するという規定である。
今回の改定はこの部分が眼目なのだ。08年、2009年、2011年ともに、この条文を提出者は強固に主張してきた。京都府や奈良県では全国に先駆けて単純所持禁止を条例で定めている。
警察による恣意的捜査の恐れ(1)の条文で多少緩和されたものと見なそう。けれども別の問題点がある。
多くの法律では、その法律が制定されたり、改定された後、その法に違反した場合に罰せられる。法施行以前には遡及しないのが通常である(法の不遡及)。理由は簡単で、日本国憲法39条(「何人も、実行の時に適法であった行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない」)で保障されているからである。
ところが児童ポルノ禁止法に単純所持禁止の条項を入れることで、過去の児童ポルノと目されるものにまで罰則が適用されることになってしまう。過去に発売された写真集や漫画、アニメ、ゲームであっても、持っていたら逮捕、罰金の可能性がある。
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