KADOKAWAの角川歴彦会長とドワンゴの川上量生会長が、7月29日に都内で開かれたセミナーで両社の統合発表後初めて公の場にそろって登場した。統合によって広がる可能性について話し、「我々は同じ世界を見ている」と今後の展開に自信を見せた。
10月1日付けで両社は統合し、持ち株会社「KADOKAWA・DWANGO」を設立。新会社の会長にはドワンゴから川上会長が就任し、デジタル/アナログ双方のコンテンツをオープンに扱うプラットフォーム展開を目指す。
この日のセミナー「IP2.0公開研究会」は、角川会長が座長を務める「IP2.0プロジェクト」が開いた。プロジェクトには川上会長や中村伊知哉 慶應義塾大学大学院教授らが参加し、IP(Intellectual Property:知的財産)の将来について議論・提案していく。
角川会長は、経営をバトンタッチすることに関し「端的に言うと、デジタル世代の人にこれからを任せたい」と意図を話す。「僕が必死で追いかけているデジタルの世界を肌で分かるし、アナログ世代の人間にも説明できるのが川上さん。最初からその視点を持つ人に経営してもらった方が、さらに変化する時代の中で確実に前に進みやすくなる」(角川会長)
川上会長は「最初に話をもらった時は単純にうれしかった。ゲーム、着メロ、ニコニコ動画――自社のサービスが軌道に乗る度に『これは大きな会社に買われるんじゃ』と何度も思ってきたのにまったく声がかからなくて悲しかったので」と笑う。
「角川会長はITの今後について普通に会話ができる数少ないコンテンツ業界の人。プラットフォーマーがコンテンツも持つことは一般的に禁じ手とされているが、パワーバランスは今後変わっていくと思う。現にニコニコ動画は単なるプラットフォーマーではなくコンテンツを自ら産み出してきている。さらに面白いことができるチャンス」と統合による可能性を話した。
KADOKAWAとドワンゴが目指すデジタル/アナログを融合したプラットフォームの姿について、角川会長が図で説明。「人とモノと金と情報が集まる場所がプラットフォーム」と定め、コンテンツ、メディア、コミュニケーションのエコシステム(生態系)を相互に促進していくことを目指すという。
具体的な新規事業のスケジュールに関しては言及しなかったが、「年内には1つ、勝負したいWebサービスを発表する。統合とは直接関係ないですが」(川上会長)という。
コンテンツを核としたプラットフォームで世界を狙う――という論調での報道も目立つが、「まずは日本の市場にあったもの、ユーザーにあったものを作りたい。グローバル展開があるとしたらあくまでその延長」(角川会長)、「コンテンツにお金を払う文化がきちんとできている日本はやりやすい環境。ここで勝てないものは世界で勝てない」(川上会長)と、国内市場で足元を固めていくことを強調した。
グローバル展開するコンテンツプラットフォームとして、例に上がるのはAmazon.com。「Amazonが物や情報のディストリビューターに徹しているとしたら、僕たちはコンテンツを核に拡散する手立てを考えるスタイル。どちらが善悪ではなく合理的な経営判断として手法が変わってくる」(川上会長)と違いを話す。値下げコンテンツを目玉に人を集めるのではなく、価値を保ちながらクリエイターに還元する“夢を見られる場所”を作りたいという。
「統合がうまくいく算段は、とよく聞かれるが、結局人間は理屈ではなく感情の生き物。『同じ世界を見ている』としか言えない。川上さんはコンテンツに対するリスペクトがあり、テクノロジーを使った次の変革も考え続けている。夢をもっと伸ばしてほしい」(角川会長)
川上会長は「個人的なことなんですが、僕が中学生の頃にハマった『ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ』(D&D)というRPG、多分全国で1万人くらいしか愛好家いなかったと思うんですが、米国から日本に持ってきたのが角川会長なんですよ」と話す。「面白いと思う感性が似ている。世代の違いでアプローチが異なるだけで目指すものは同じだと思う」
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