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一度は挫折した大学生協「単位パン」、想定外の大ヒット生んだ蛍雪の功 書体にこだわり、焼き印の“特訓”も(2/3 ページ)

» 2015年02月23日 11時45分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 「是非やってみたい」。小菅製パンからは力強い回答が届いた。「単位パンの企画は非常に面白いと思った。売れるかどうかは別問題だが」――小菅製パンで単位パンを担当した宰務立美(さいむたつみ)さんは振り返る。

画像 単位パンの袋のシールには製造元「小菅製パン株式会社」と記載されている

 同社は以前、パンダの焼き印を手押しした「パンダパン」を製造した経験がある。その時に使った焼き印の電気ごてが残っており、製造ノウハウもあった。学校給食に合わせた操業体制なので土日は休み。平日だけ商品を届けてほしいという大学生協のニーズに合っていた。

 とはいえ、同社にも不安はあったという。まったく新しい商品で売れるか分からず、採算に乗らない可能性がある。だが「断るのは簡単。新しいことをやっていく姿勢が大事」(宰務さん)と受注を決めたという。

字体にこだわり 3日前から“焼き印特訓”も

画像 小菅製パンの工場で「単位」の焼き印を押している様子

 「単位の文字は、きっちりとした書体にしたい」(居藤さん)――「単位」の文字にこだわった。教科書体、明朝体、ゴシック体などを検討し、「一番しっかり字が出る」ゴシック体を採用。焼き印をきれいに押せるよう、パンは平焼きのものを選んだ。

 小菅製パンのスタッフは、「単位」の焼き印をセットした電気ごてを持ち、パンの真ん中に7秒間押しつけると、文字がくっきりと浮かび上がる。熱さに耐えながらの地道な手作業だ。

 焼き印を押すパンの製造は、パンダパン以来4年ぶり。初めてのスタッフでもきれいに押せるよう、発売3日前ごろからロスパン(捨てるパン)を使って特訓をしたという。「単位の字が削れてしまったり、ちゃんと出ないと縁起が悪い。学生さんにとって、単位はひとつの命ですから」(宰務さん)。

画像 レシートには「単位」とだけ印字

 購入すると、レシートに「単位パン」ではなく「単位」とだけ表示する工夫も。「大学生協で“単位”を買った」と学生がつぶやいてくれれば面白い――そんな考えから、居藤さんが思いついたという。レシートで“遊ぶ”企画も大学生協として初めてだ。

焼き印に祈祷を依頼、断られる

画像 湯島天神に焼きごてを持っていき、お祈りした

 居藤さんにも、最初から「売れる」と確信があったわけではない。大学生協の店長も「面白そうだからやろうという店長と、冷めた感じの店長が半々ぐらい」だったという。大学側に「単位という言葉を使った悪ふざけ」などと不愉快に思われるのでは――という心配もあった。

 単位パンは悪ふざけではなく、生協が学生のことを本気で考えて作った商品だ――そんな心意気を示すため居藤さんは、大学生協の店長や学生、メーカーの担当者などとともに、単位パンと焼きごてを携え、学問の神様・湯島天神(東京都文京区)にお参りした。

画像 法政大学生協(小金井)の売り場にはお札が飾られていた

 本当は、焼き印に祈祷してもらいたかったという。だが湯島天神に「物に対する祈祷や祈願は行っていない」と断られたため、お参りだけにとどめることに。学生に「単位取得」の絵馬を書いてもらって奉納し、学問成就のお札をもらって帰った。お札は千葉大と法政大生協の単位パン売り場に飾られた。

 教員の「お墨付き」をもらった大学生協もある。明治薬科大学生協は、販売した「単位パン」の一部に、3人の教員の似顔絵をあしらった「OSUMITSUKI(お墨付き)シール」を貼付。各大学生協ごとにスタッフや学生委員が工夫し、売り場を展開していった。

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