プロの凄みを引き出す手法が「研究100連発」だとしたら、ユーザー参加型研究を体現し、「野生の研究者」発掘の礎となっているのが「研究してみたマッドネス」だ。プロ・アマ問わず発表者を募り、「座長」が選んだ人に3分の時間が与えられる。
短時間の発表を複数人が行うという点ではLT(ライトニングトーク)と似ているが、江渡さんは「『欽ちゃんの仮装大賞』『のどじまん大会』のようなイメージ」と話す。コーナーを企画・運営する座長が発表後の登壇者といくつか言葉を交わしたり、この研究を選んだ理由を話すことで、全体にやわらかなまとまりが感じられる。
「熱意を誰かに伝えられる場がある意味、リアクションをもらえる喜びがダイレクトに感じられる瞬間なので、むしろ発表後のやりとりこそ本質的と言えるかもしれない。研究は1人では完結しないし、場の中で新たに生まれるものもある」(江渡さん)
活動終了まで1年となり、培ったメソッドやノウハウをどう伝えていくか、再現可能なものにするかが1つの課題だ。
目標の1つとして掲げていた海外展開の第一歩として、今年3月、チームラボの高須正和さん主催でシンガポールで「研究100連発」を実施した。「TEDやLTとどう違うのか」というよくある疑問の声に応えるべく、現地で発表者を募るのではなく、日本で登壇経験のある人が英語で行う形式をとった。参加者からも好評で、発表後の交流も盛んだったという。
「実際にやってみせることで、発表ではなくコンパクトに業績をまとめる自己紹介のフォーマットだということが伝わった。言語も環境も違う場所で、それぞれの研究成果と研究者自身の顔と名前を結びつけるだけでなく、これまでの興味の流れまで踏み込んで理解してもらえたことに可能性を感じる」(江渡さん)
「ニコニコ学会β」自体の知名度はある程度まで高まったものの、各回の生放送の視聴者・コメント数は数万人規模でほぼ横ばいで、大きく成長しているわけではない。江渡さんは「数だけを求めると容易にダークサイドに落ちる」としつつ、大切にしてきたのは「まだ見ぬ登壇者にどう届けるか、彼らが次回のためにどれだけ手をあげてくれるか」だと振り返る。
「ニコニコ学会βはあなたの学会です」――設立の際に発表したマニフェストの一節の通り、プロ・アマ問わず「野生の研究者」が集まる場を作り、「このテーマをやりたい」と手を上げた人に合わせて学問領域も広げてきた。活動を進めるうちに、数年前までネット配信すら抵抗が大きかった既存の学会から協働の声をかけられるようになり、国の機関であるJSTとの関わりもできた。必ずしも学問的なものに限らずに“研究”の裾野を広げてきた「ニコニコ学会β」の意義は小さくない。
「終了後についていろいろ考えてはいるが、正直何も残らなくてもいいかなと思う部分もある。なぜなら、少なくとも僕は4年間楽しかったから。そして同じように、参加してくれた人それぞれが抱いている思いや残したい何かがあるはず。“自分の学会”として関わってくれた人たちの意見を尊重して、残すべきものを考えていきたい」(江渡さん)
「研究してみた」に価値を──「ニコニコ学会β」が目指す新しい学会のかたち
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