からくり半蔵が著した「機巧図彙」は、後の時代を生きるエンジニアに多大な影響を与えました。その影響を受けた代表的な技術者の一人が東洋のエジソンともいわれる田中久重。現在の東芝(当時は芝浦製作所)の創業者として知られる人物です。久重が発明した全自動の万年時計(万年自鳴鐘)は、半蔵マインドを引き継いだものでした。
日本を代表する電器メーカーの創業者であり、現在では電器工学の父ともいわれる久重が若い頃に「機巧図彙」を耽読(たんどく)していたことからも、日本のテクノロジーマインドのはじまりに、やはり半蔵の精神が息づいていたのです。
「機巧図彙」の序文には以下のように記されています。
〈── 夫奇器を製するの要は、多く見て、心に記憶し、物に触て機転を用ゆるを学ぶ。(中略)此書の如き、実に児戯に等しけれども、見る人の斟酌に依ては、起見生心の一助とも成なんかし──〉
〈── 機械を制作するための要点は、様々なモノを見て記憶し、実物に触れて、アイデアを学ぶことである。この本の内容は、子供の遊びごとに過ぎないかもしれないが、見る人の洞察しだいで、ヒントが見出され、発明の手助けにもなるだろう ──〉
この言葉から「自分の成果を後の時代の技術開発に役立ててほしい……」という半蔵の思いが伝わります。
── 資料に乏しく謎めいた、からくり半蔵という人物。
彼の残したマインドは機械作りに限らず、クリエイティブな領域全般に通じるものです。ロボティクス分野で世界の最先端を担い、“技術立国”とも呼ばれるようになった日本において、今後も受け継がれるエンジニア精神がそこにあります。
自分たちが持っている技術を進んで共有し、社会に役立てていこうとするエンジニアによる“シェアリング”(技術公開)の発想もまた、秘伝である技術をすすんで公開した半蔵の姿勢にすでに萌芽していたのかもしれません。
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