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“本の中身”ネットで無料公開「HALLOM」誕生 宝島社やマガジンハウスら29社参加 その勝算は(2/2 ページ)

» 2017年04月03日 09時00分 公開
[本宮学ITmedia]
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キュレーションサイト問題も“追い風”に?

 スマートゲートは2011年設立のベンチャーで、紙の出版物の電子化事業などを手掛けている。同社が出版社などに提供している電子書籍化サービスは、これまで約280社に採用されているという。

 HALLOMの構想が始まったのは16年10月のこと。「付き合いのある出版社の方々と『何か新しいことができないか』と検討している間にアイデアが生まれた」と後藤社長は振り返る。

 「書店が減って出版不況と言われている一方、ネットを起点とした書籍購入は増えている。アピールのために自ら書籍紹介サイトを運営している出版社もあるが、自社コンテンツだけだとなかなか広がりを作るのが難しい。各出版社のコンテンツをまとめて見られる場を作れば、ユーザーにとってもメリットがあるのではと考えた」

 このアイデアが生まれた時期は奇しくも、ディー・エヌ・エー(DeNA)やサイバーエージェントなどが手掛ける複数のキュレーションサイトで、記事内容の信頼性の低さや第三者コンテンツからの無断転載などが相次いで指摘されていたころでもある。出版コンテンツからの無断転載に対抗する意図もあったのでは――と思いきや、後藤社長によれば、当初はこうした考えは「全くなかった」という。

 一方、今では他社サイトの動向を“追い風”ととらえているという。一連の騒動を受けて現在、ファッションや美容、体の悩みといったテーマを扱う複数のキュレーションサイトが運営を停止している。「もともと女性向け情報サイトはレッドオーシャンだったが、気が付けば(競合が減って)逆にブルーオーシャンになっている」と、スマートゲートでHALLOM事業を手掛ける森昌彦取締役は分析する。

サイト拡大のカギは……

 HALLOMは3月9日にβ版を公開し、4月3日に正式オープン。現状のコンテンツ数は200本弱だが、今後連携する出版社数・コンテンツ数を拡充し、1年後には月間300万PVを目指すという。スマートゲートは各出版社に書籍アピールの場を無償で与える代わりに、サイトからの広告収益を得る考えだ。

photo 左から森取締役、後藤社長

 「300万PVという数字にはある程度目算がある」と森さんは話す。「コンテンツを提供してくれる著者さんが、TwitterやFacebookのアカウントで『HALLOMで紹介されました』と告知してくれたりする。著者さんには熱心なファンが数千人規模でいることも多いので、そこからの流入にも期待できる」(森さん)

 森さんによれば、書籍の著者が新刊を出した際、ネット上で誰もが無料で試し読みできる場がないため「紹介したくてもなかなかできない場合が多かった」という。HALLOMで書籍内容の一部をWeb公開することで、著者にとっても販売増などのメリットが見込めるという。

 コンテンツを提供する出版社も、書籍の販売増に向けたアピール効果に期待している。参画企業の1社であるSBクリエイティブの広報宣伝担当者は「新聞広告ではリーチが難しい若い女性や主婦層へ、当社の書籍の認知が広がることを期待している」と話す。

 サイト拡大に向け、検索エンジン最適化(SEO)にも取り組んでいく。「本は書籍名や著者名で直接検索しないとなかなか出てこない。だがHALLOMでは、書籍内に書かれているキーワードをもとにSEO対策を行える。つまり、最初からその本を読みたかった人だけでなく、知らなかった人にもアプローチしやすくなるのでは」と後藤社長は話す。

 今後、出版社による新刊紹介コーナーなどの新機能も検討するという。「HALLOMは著者と出版社、ユーザーのいずれにもメリットがあるモデル。サイトを通じ、出版物の良さをより多くの人に知ってもらいたい」(後藤社長)

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