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梯郁太郎氏はなぜAppleから距離を置いたのか立ちどまるよふりむくよ(3/5 ページ)

» 2017年04月04日 06時11分 公開
[松尾公也ITmedia]

Appleに「絶対に喰われる」

 Appleに音源を提供する一方で、なぜプラットフォームとしてはWindowsの方を選択したのか。その答えはインタビューの中にある。

 Appleとは次の展開をという話もあったが、「お互い夢みたいなことがありすぎてなかなか現実化させることはできませんでした」と梯氏。Apple側の「担当者がぐるぐると変わった」ことも災いした。

 Appleに対する警戒心もあった。Appleは「競争しても、似たところで戦ったら絶対に喰われる」と確信しており、「個人的には好きな製品、好きな会社だったけれど、近づくと吸い込まれちゃう」という感触を持っていた。

 Appleがコンピュータ会社で、楽器や音楽制作に乗り出さない段階なら提携もありえたかもしれないが、Appleは結局Emagicを買収してプロシューマー向けには安価なフルDAWのLogicを、初心者向けにはACIDの開発者を採用してGarageBandを作り上げる。もしもMac向けにソフトウェア開発をフルコミットしていたら大きな痛手を受けていただろう。梯氏の読みは当たっていたわけだ。さすがの慧眼である。

 Appleがこのように音楽制作にフルコミットできたのは、2007年、Apple Corpsとの電撃的和解が成立したからだ。

 新しい契約ではApple Inc.がAppleという登録商標のすべての権利を所有し、Apple Corpsに対してその商標の継続的な使用をライセンス供与することになる

 一発逆転で、Appleは楽器でもiTunes Storeでの音楽販売でもなんでもできるようになったのだ。MainStageの発売もこの2007年。

 そしてiPhoneの発表が同じ年に行われ、マルチタッチインタフェースを使い、App Storeで販売するアプリの新時代がやってくる。

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