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SFから現実へ 「働くAI」のいま

「すごすぎる」――地方のパン屋が“AIレジ”で超絶進化 足かけ10年、たった20人の開発会社の苦労の物語(4/5 ページ)

» 2017年05月15日 12時11分 公開
[本宮学ITmedia]

「怪しい」と言われて数年……口コミで100店舗に

 自信作を引っ提げて、各地のパン店に営業に回った。しかし反応はいまいちだった。「面白いとは言ってもらえるが『(システムの)値段も高いし大丈夫?』と。そして、いざ買うかどうかの段階になると『面白い』だった反応が『本当に大丈夫?』に変わってしまう」(原さん)

 それでもあきらめず、製品の洗練を重ねた。すると2016年ごろからぽつりぽつりと「導入したい」という声が増えていったという。「初期に導入してくれた“チャレンジャー”なお店が評判を呼び、口コミで広がり始めた。導入したお店の様子を他のお店の人が見て、また導入してくれる――というサイクルが回ってきた」。

 今では関西圏を中心に、全国約100店舗に約180台が導入されている。その中には個人経営らしい小規模店も目立つ。ベテランスタッフが在籍している店にも売れるのか――と問うと、原さんは「そういうお店には売れません」とあっさり言う。

photo BakeryScan導入店の様子

 「“10年選手”のベテラン店員さんで間に合っているお店には売れません。人手が足りなくて困っている店舗のニーズに合致したのがよかったのかなと。数十種類のパンの値段を覚えるのは、とても大変。新人に教えるためにベテランの手間もかかるし、アルバイトの学生に商品一覧表を渡して『家で覚えてきてね』と言ったら、次から来なくなってしまったり……。そういう教育の難しさを解消できたのが、よかったのかなと思う」

 それだけでなく、開発時に予期していなかったメリットも生まれているという。

 「パン屋さんでレジに行列ができていると、レジのスタッフはすごくストレスを感じるらしいんです。たとえベテランスタッフが素早く行列をさばいていても、どうしても無意識に顔がこわばってしまう。機械が精算を代行することで人に余裕が生まれ、お客さんと目を合わせて接客できるようになったのがよかったと、お店の人にも言ってもらえている」

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