NHK放送技術研究所は5月25〜28日、放送に関する最新技術を一般公開するイベント「NHK技研公開2017」(入場無料)を開催している。今年の技研公開イベントでは放送と通信の融合に加え、ハードウェアと連携した展示が大きなスペースを確保している。その一部を紹介する。
この展示は「ロボットと一緒にテレビを見るとどうなるか」というもの。あくまで実験段階の技術だが、テレビと連動してロボットが体操したり、テレビの字幕を翻訳し、元の字幕と異なる言語でロボットが発声してくれたりする。
これを支える仕組みが「Hybridcast Connect」だ。Hybridcast Connectとは、端末間連携を可能にするアプリケーションの機能名。例えば、このアプリケーションを導入した端末とテレビを連携できる。
「ラジオ体操の番組が始まった」という信号を放送波で送ると、Hybridcast Connectが入っている端末側でその信号を受信。すると、同じ端末に入っているロボット操作アプリケーションが起動し、ロボットがプログラムに応じて動く――といった具合だ。
また、番組に関する内容をロボットが話すことも可能。これは、番組情報と字幕情報から番組に関連するキーワードを抽出し、ロボットが発話する文を自動生成している。担当者は「テレビの1つのアプリケーションとしてロボットとの連携を考えている」と話している。
Hybridcast Connectを使った取り組みは、冷蔵庫やおもちゃ、医療機関などにも広がっている。例えばテレビと冷蔵庫を連携させれば、料理番組で使われている食材で冷蔵庫にないものをアプリに表示してくれるなんてこともできる。
子ども向けにもこの技術は使える。例えば、ドラえもんのアニメと連動して、家にあるおもちゃのタケコプターを動かしたり、部屋の色を変えたりが可能。テレビ番組内で増えつつある視聴者向けクイズも、リモコン操作ではなくリアルな物体と連携させれば、よりアクセスしやすくなるのではないかと担当者は説明する。
医療機関との連携については、テレビを見て「この医療機関いいな」と思った場合、Hybridcast ConnectによってPCやスマートフォン、タブレットなどの地図アプリを起動。病院名などをメモしたり検索したりしなくても、番組データから自動でそこへの道順を示してくれる。また、LINEなどのメッセージアプリと連携させて、その情報を家族や知人に紹介することも可能。紹介された医療機関に行くと、スマートフォンのGPSで感知し、情報を教えてくれた人に通知を届ける仕組みも開発しているという。
Hybridcast Connectは今年1月にリリース予定だったが、国内主要シェアを占めている全てのテレビメーカーに対応しなければならず、現状はまだリリースできていない状況とのこと。リリースされたら間違いなくわれわれの生活は変わるだろうと、デモを見て感じた。
データを活用した新しいサービスが開発される中、必ず意識しなければならない「プライバシー保護」のための研究も行われている。その1つが、放送と通信の連携における暗号技術の研究だ。
開発したのは、視聴者が許可したサービス事業者に限り、事業者がその人の視聴履歴をクラウドサーバー上で暗号化したまま検索できるようにするシステム。秘匿検索とアクセス制御を両立する暗号方式で、暗号化処理の一部をクラウド上で行うことでユーザー端末にかかる負荷も軽減できる仕組みとなっている。
今年の技研公開イベントでは、2020年を意識した映像視聴体験と高解像度映像、冷蔵庫やロボットをはじめとするハードウェアとの連携が目立った。あと3年でどこまで実現するのか。未来が楽しみになる展示ばかりだ。
(太田智美)
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