そうした声にもめげず、森川さんは別の視点からゲームAIに挑んだ。「キャラを自由にしゃべらせたい」という思いから作った「くまうた」(プレイステーション2向け、2003年発売)だ。
音声合成技術を活用したが、当時の技術では言葉のイントネーションをうまく付けることができなかったため、「歌にしてしまえ」と開発した作品だった。「抑揚のない話し方だと世界観を壊す。歌は普段の会話言葉とはイントネーションが全く違うので、ごまかせる。すごい発見だと思った」
「失敗したのは、演歌とくまを題材に選んでしまったこと」と森川さんは苦笑いする。くまうたの発売から4年後、VOCALOIDソフト「初音ミク」が登場すると「こっちだったか」と反省したという。「くまと演歌の組み合わせでは、(世間の評価は)それはダメだろうと。なぜプロデューサーは止めなかったのか」
「ゲーム開発にAIが必須という空気になりつつある」――そう話すのは、森川さんと同じくゲームAI開発者で、「FINAL FANTASY XV」(16年発売)などに携わった三宅陽一郎さん。09年ごろまでは「踏んだり蹴ったり」だったが、10年から風向きが変わったという。
「今もグラフィックスは進化しているが、急激な変化は起きなくなった。一方、プレイヤーが(AIとの対話など)インタラクティブなことに慣れるようになり、11年〜12年ごろからゲームAIの開発が本格化してきている」(三宅さん)
三宅さんは、ゲームAIを「これまで固定化していたものを動的にするもの」と話す。例えば、プレイヤーの行動に応じて、敵の配置や難易度をAIが“神様のような視点”で調整し、最終的にはストーリー自体もAIが決めるようになる――そんなダイナミックなゲームの開発を目指しているという。
「日本のゲームデザイナーが優秀すぎて、AIが賢くなくてもいいゲームを作れてしまうが、その結果ゲームデザインを束縛するようになった。海外は不器用なので『AIがないと制御ができない』と研究が進み、日本はオープンワールド化の波に乗り遅れた(※)」
(※)オープンワールド……広大な世界を自由に探索でき、ストーリーが一本道ではないゲームジャンル
三宅さんは、日本のゲーム業界はまず、遺伝的アルゴリズムやニューラルネットワークなど“一世代前のモデル”から探求すべきと提案する。森川さんの作品以外に、そうした技術を取り入れたものは少ないが、「日本のゲーム会社はいきなり、計算量が膨大なディープラーニング(深層学習)などに飛びつく傾向がある」という。
「AIは玩具だ」とも森川さん。若い人たちには「ゲームにAIを使うとどうなるか」ではなく「まずはAIをいろいろと試してほしい」という。「いきなりゲームデザインとAIを結び付けるのではなく、AIで遊ぶうちにアイデアが出てくるのではないか。試せることが多い中で、ブレークスルーが起きるのを期待している」(森川さん)
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