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障害者に優しいWebサイトとは? 海外のバリアフリー事情“日本が知らない”海外のIT

» 2017年10月20日 07時00分 公開
[山本直子ITmedia]

 仕事や学業に関わる内容から趣味の娯楽まで、私たちはさまざまなWebサイトを日々使っている。ところで、障害を抱える人々はこれらのサイトをどう眺めているのか、想像したことがあるだろうか。

 障害者にも利用しやすいWebサイトを作成する取り組みは、十分な規制やガイダンスがない中で大きな動きに発展していないのが現状だ。しかし、先進国を中心に高齢化が進む中、Webサイトのバリアフリー化は決して多くの人にとって他人ごとではない事柄だろう。

海外 盲目の人は、どうやってコンピュータを使っているのだろうか?(YouTubeより)

連載:“日本が知らない”海外のIT

日本にまだ上陸していない、IT関連サービス・製品を紹介する連載。国外を拠点に活動するライター陣が、日本にいるだけでは気付かない海外のIT事情をお届けする。


世界の5億人が障害者? 進む高齢化

 米・国勢調査局によると、2013年に米国で障害を抱える人の割合は、全人口に対して12.6%で、約3900万人に上った。ニュー・ハンプシャー大学の調査では、15年も同じく12.6%となっている。このうち、Webサイトへのアクセスを困難にする障害者は50%以上。世界人口にこの比率を当てはめると、約5億人となる。

 一方、世界人口の約4億2000万人は65歳以上の老人だ。ニュー・ハンプシャー大学によると、このうちの35%が何らかの障害を抱えているという。年齢別の状況をみると、年齢が高くなるにつれて障害率は高まっている。

 例えば、視覚障害者の比率は、18〜64歳が1.9%なのに対し、65歳以上は6.5%。聴覚障害は同2.0%と14.8%、運動機能障害は同5.1%と22.6%と一気に拡大する。

 65歳以上の人口は、向こう20年間で大幅に増加すると予想されており、障害者の数もこれに比例して増加するものとみられる。年を取れば、誰もがさまざまな障害を抱える可能性を持っており、Webサイトのアクセシビリティーについて考えることも他人ごとではなくなってくる。

海外 2015年、米国人口に占める年齢別の障害者の割合(ニュー・ハンプシャー大学による「障害統計アニュアルレポート2016年」より)

Webサイトの「バリアフリー」とは

 Webサイトへのアクセスに影響を与える障害には、盲目やロービジョンなどの視覚障害、聾や難聴などの聴覚障害、手の震えや筋肉の衰えなど運動機能障害、学習や記憶、問題解決などに困難を抱える認知障害などが挙げられる。これらの障害を抱える人たちは、どのようにWebサイトのコンテンツにアクセスするのだろうか。

 例えば、視覚障害者には、フォントの形や大きさを自由に設定できる機能、Webサイトのコンテンツを音声で読み上げる機能などが必要となる。手の震えでキーボードを打つのが困難な人には、口頭によるコマンドが有効な解決策となり得る。認知障害者には、Webサイトのコンテンツをシンプルにカスタマイズすることも大切だろう。

 このような機能をWebサイトに追加し、障害者へのアクセシビリティーを高めるサポートしているのが、米アリゾナ発の「AudioEye」だ。同社はJavaScriptのプラグインにより、既存のWebサイトに障害者向けのツールバーや、関連補助ユーティリティーを提供する。

 Web管理者は、同プラグインをインストールし、「AudioEye Reader」「AudioEye Voice」「AudioEye Player」といったユーティリティーを付与する。これにより、ユーザーがコンテンツを耳で聴いたり、フォントのサイズや色のコントラストを変えたり、音声で文字を入力したりするのを可能にする。

海外 AudioEye、はWebサイトのアクセシビリティーを高めるツールを提供する

 同社のツールは、既に自閉症のリサーチやサポートに携わるNPO「Southwest Autism Research & Resource Center」や、米地方政府向けのテクノロジー・プラットフォームを提供する「Civic Plus」、Web開発・デジタル広告プロバイダー「Dealer Inspire」などに導入されている。

Webサイトのバリアフリー化は広範囲に恩恵

 Forrest Researchの調べによると、障害者の75%はコンピュータを使用。このうち3分の2が何らかの形でアクセシビリティーを高める技術を利用しているという。

 米IBMによれば、障害者と高齢者がWebサイトにアクセスするためのテクノロジーは似ているという。障害者へのアクセシビリティーを高めることは、結果的に高齢者にも恩恵をもたらすことになる。

 IBMによると、米国だけで障害者の可処分所得は2200億ドルに上る。戦後〜60年代前半に生まれたベビーブーマー世代の可処分所得や年金投資を考慮すると、その市場規模はさらに大きい。

 アクセシビリティー改善の効果は、障害者や高齢者など新たな市場の開拓だけにとどまらない。IBMは、銀行などのクライアントに対し、アクセシビリティー向上に向けた技術サービスを提供しているが、Webアクセスの最大化は顧客体験の改善や顧客のロイヤルティー向上、パブリック・イメージの改善にもつながっているという。

 一方、障害者のアクセシビリティーについては、「World Wide Web Consortiums」(W3C)によるガイドラインなどがある。米国、英国、日本、ドイツなど多数の国で、企業や政府機関は一定の基準を満たすことを推奨または要求されているが、これまでのところ十分な法規制は整っていない。米国では15年、同問題に関する企業への起訴数が40件に上ったという。

海外 World Wide Web Consortiums(W3C)のホームページより

 まだまだ課題の多い市場ではあるが、世界的な高齢化により、今後はWebサイトのアクセシビリティーに関する法規制もますます整備されていくだろう。高齢者が増えれば、この問題はさらに身近なものとして多くの企業が取り組むようになるはずだ。近い将来、ネット社会にもバリアフリーの時代がやって来ることが期待される。

執筆:山本直子

編集:岡徳之(Livit


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