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累積赤字約50億円 ネット印刷「ラクスル」“攻めの姿勢”は実るか「NOKIZAL」決算ピックアップ

» 2017年11月24日 11時08分 公開
[NOKIZALITmedia]

 ネット印刷サービスなどを運営するラクスル(東京都品川区)が11月22日、官報に掲載した決算公告(17年7月31日現在)によれば、当期純損失は11億7500万円の赤字(前年同期は14億4800万円の赤字)、累積の利益や損失の指標となる利益剰余金は11億7500万円の赤字(同36億8500万円の赤字)だった。

 同社は17年6月に38億4500万円の減資を実施している。

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 ラクスルは2009年設立。創業当初はネット印刷の価格比較サービス「印刷比較.com」をメインに運営していた。その後は、各印刷業者の印刷機の稼働率が5割以下と低く、またその価格も1億円程度と高い点に着目。それらの遊休資産をネットワークとして束ねて、安価で提供する“シェアリングエコノミー”のようなネット印刷サービス「ラクスル」に事業転換した。15年12月からは同様の手法で、配送業者とユーザーをマッチングするネット配送サービス「ハコベル」も提供している。

photo ラクスルの公式サイトより

 資金調達は、14年に14.5億円、15年には40億円を調達するなど、度々の大型調達に成功し、累計の資金調達額は79億円。一方、海外展開も視野に入れ、同様の事業を展開するPrinzio(インドネシア)やInkmonk(インド)に出資したほか、17年7月にはヤマトホールディングスとオープン型の物流プラットフォーム構築を目指す資本業務提携を締結した。

ここがポイント

 昨今、大型化してきた国内スタートアップによる資金調達の中でも、79億円と目を引く大型調達を果たしたラクスル。今回の決算公告を見ると当期純損失は11億7500万円の赤字。減資前の前回の決算公告の利益剰余金の赤字36億8500万円と合わせると、累積赤字は50億円近くまで積み上がっていると推測されます。

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 それでも流動資産38.3億円に対して、流動負債は14.9億円なので、さすがに79億円調達しただけあって、当面の資金繰りは問題なさそうです。とはいえ、79億円調達して50億円の赤字はかなりの先行投資ペースといえます。

 その分だけ株主の期待も大きいといえるわけですが、ここで同社の主戦場である印刷業界にも簡単に触れておくと、企業数は約3万社弱、市場規模は5兆円強ほど。市場規模の半分を凸版印刷大日本印刷の大手2社が占めています。さらに3位以下にもNISSHA共同印刷といった売上数百億円以上の企業が並びますが、業界全体としては全国にある地域や顧客密着型の中小企業が大半です。一方、IT化の影響により、ここ15年で規模が7.5兆円から大きく減少した市場でもあります。

 このような状況から、印刷業界(加えて最近では運輸業界)に対して、イノベーションを起こすことが期待されているラクスル。先行投資による赤字に加え、売上高も今回の決算公告では16年の50億円からどこまで伸ばせたのか分からないので、達成できるかの進捗は何ともいえないところですが、外部要因として気になることはあります。

 それはネット印刷サービス大手のプリントパックの動きです。プリントパックの売上高は200億円を超えており、シェアリングエコノミー的なラクスルとは違い、自社で印刷機を抱えています。それだとサービス品質も高まる分、コストも上がるはずなのですが、現在の価格はラクスルよりも安く設定されているようです。

 試しに、両社の代表的な商品であるA4チラシ(光沢紙、厚さ標準、片面カラー)で見積もりを出してみたところ、下記の結果になりました。

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 こうして並べてみると、経緯は分かりませんが、値引き前と比較するとラクスルを意識した価格帯に見えます。

 ユーザーとしては安いネット印刷がさらに安くなるのはうれしいところですが、この展開が続くと、ラクスルにとっては、ユーザーに比較された時のセールスポイントである安さの魅力が失われます。もともと印刷業界は、大手2社ですら1.5兆円を売り上げて利益が500億円残るという利益率。消耗戦に突入してしまうようだと赤字先行のラクスルは、さらに厳しい展開にもなりかねません。ラクスルが79億円の調達に見合った結果にたどり着けるのか、注目です。

ラクスルの過去業績、他の企業情報は「NOKIZAL」で確認できます

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《著者紹介》

平野健児。新卒でWeb広告営業を経験後、Webを中心とした新規事業の立ち上げ請負業務で独立。WebサイトM&Aの「SiteStock」や無料家計簿アプリ「ReceReco」他、多数の新規事業の立ち上げ、運営に携わる。現在は株式会社Plainworksを創業し「NOKIZAL」を運営中。

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