ITmedia NEWS > AI+ >
ITmedia AI+ AI活用のいまが分かる

念じるだけ、“脳波で動く車いす”開発の狙い2017国際ロボット展

» 2017年11月29日 18時00分 公開
[村上万純ITmedia]

 脳波を使って動かす車いすを、金沢工業大学が「2017国際ロボット展」(11月29日〜12月2日、東京ビッグサイト)に出展している。PCと接続した専用ヘッドセットを頭に装着し、利用者が「止まれ」と念ずると2秒ほどで車いすが止まる仕組みだ。

車いす 脳波で動く車いす

 14チャンネル(14個の電極を当てて脳波の周波数を測定)に対応する米EMOTIVのワイヤレスヘッドセット「EPOC+」(エポックプラス)を車いすと連携。あらかじめ車いす上部の測域センサーで走行環境の地図を作成しておく。設定された番号(例えば1番を自室、2番をトイレなどに設定)を脳内で「1番」などとイメージすると、その場所に自動走行できる。

ヘッドセット 14チャンネルの脳波を計測できる米EMOTIVのワイヤレスヘッドセット「EPOC+」(エポックプラス)

 足元のセンサーで障害物を回避し、途中で人と話したいときや、外の風景を見たいときなどは「止まれ」と念ずると止まる仕組みだ。ユカイ工学の「necomimi」などは1チャンネルの脳波しか計測できないので個人差が出るが、14チャンネルを使うとより精度の高い計測ができるという。

 深層学習の技術も活用し、80%ほどの精度で正しい場所へ移動するという。ただし、利用者の脳波は事前に学習する必要がある。金沢工業大学の中沢実教授は「いずれは車いすに座るだけで利用者が誰かを特定し、脳波で動かせるようにしたい」と話す。

中沢教授 金沢工業大学の中沢実教授

利用者を“疲れさせない”工夫

 当初は、「前、右、左、止まれ」など1つ1つの動きを脳波で制御していたが、「それだと利用者が疲れてしまう」(中沢教授)という。また、移動先を番号にしたのも理由がある。例えば「トイレ」に行きたい場合、人によって「文字」「トイレのマーク」などイメージするものにばらつきが出るため、番号に統一した。

車いす

 「もともと自動走行システムは工場などで使われていたが、車いすに応用することで体が不自由な人にも使ってもらえると考えた」(中沢教授)。一部病院で3回ほど試験走行しており、現場からも実用化を望まれているが、コスト面の問題などから量産化が難しいという。また、マーカー部分が乾いていると計測できないため、生理食塩水などで湿らせる必要があるなど課題も多い。

車いす 車いすの概要

脳波で「生体認証」も

 同大学では、指紋や虹彩、顔認証のように、脳波を「生体認証」に活用する研究も実施。中沢教授は「脳波なら、指紋や虹彩のように他者がカメラで盗むことができない」と安全性を強調する。特定の画像を見せたときの脳波データを取得し、認証時に照合するシステム。認証には10秒ほどかかるという。

 中沢教授は「私たちの研究は8割がロマン」と笑うが、脳波データは他にもさまざまな利用シーンで活躍する可能性を秘めているだろう。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.