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数年後に「ZOZOSUIT」はいらなくなる? 落合陽一さんとメルカリ、画像使った共同研究で「試着」の可能性探る

» 2017年12月22日 21時25分 公開
[ITmedia]

 「メルカリの画像を使って“試着”にも取り組みたい」――筑波大学の落合陽一さん(デジタルネイチャー推進戦略研究基盤 基盤長)は12月22日、メルカリ主催のトークセッションでそう話した。メルカリの画像データとボーン(3DCGで人物を作る骨組み)を活用することで、メルカリで売られている服を“自分が着ているように見る”ことができるかもしれないという。セッションでは、数年後にはZOZOSUITはいらなくなるかもしれない……という話も飛び出した。

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 メルカリと落合さんの共同研究は、同日に設立を発表した研究開発組織「mercari R4D」の取り組みの1つ。mercari R4Dは東京大学やシャープなど6機関とパートナーシップを結び、ブロックチェーンやIoTなど新たな技術をいち早くサービス化することを目指すもので、落合さんの研究室とは、メルカリの持つ画像データを生かし、類似商品画像の提案、別角度からの商品表示、背景の自動特定と削除による検索性能向上などに取り組む予定だ。

 これに加えて落合さんはメルカリから提供される画像をデータセットとして用い、「試着」にも取り組んでみたいという。

 「メルカリで売っている服を“自分で着ているようにする”ことは、ディープラーニングベースではまだできない。でも、それを実現するのに必要な服のデータは1〜2年もあれば入れられると思う」(落合さん)

 セッションで落合さんと一緒に登壇した小笠原治さん(京都造形芸術大学教授/mercari R4Dシニアフェロー)も同意し「2年後にはZOZOSUITがいらなくなるかもしれない」と話す。「ボーンを作って、上から“着ている風”にするだけならZOZOSUITほどの精度はいらない。それを作れたら、早く社会実装できればと思っている」(小笠原さん)

photo トークセッションの様子。落合陽一さん(右)と小笠原治さん(左)

 いち早く社会実装すること――それがmercari R4Dの目的であり、大学や大企業などではやりにくい「クイック&ダーティー」なことを共同研究で実現したいと2人は言う。そのためには、ある分野に詳しい研究者だけでなく「アプリ作りのための優秀なエンジニアが必要」だと落合さんは話す。メルカリと組んだ理由の1つは、そうした優秀なエンジニアがたくさんいるからという。

photo 「mercari R4D」の取り組み

 もう1つの理由は、メルカリに毎日100万枚以上アップされる商品画像を使えること。落合さんとの共同研究で肝になるのは、プログラムに合わせて論理的に関連するデータを集めた「データセット」。メルカリの画像はこれに適しているのだという。

 なぜなら、メルカリに投稿される画像は「売りたいもの」の関連画像に限られており、全く関係のない画像が混ざることは少なく、ある程度の分類も可能だからだ。また、ほとんどがスマートフォンで撮影されているため、データセットでネックになる「カメラの種類」も数種類で済むという。

 「違うレンズ、違うセンサーで撮った画像では、データセットとして使おうと思っても意外と上手くいかない。あるアプリに、スマホのような“だいたい同じハードウェア”で撮られたものが集まっていることが望ましい」(落合さん)

 しかし、研究者がアクセスできるデータセットには、スマホなど“決まったもの”で撮影され、カテゴリが絞られたものは少ないため、メルカリのような企業から提供されることは「大学にとっても、国内や海外の研究者にとってもアツいこと」(落合さん)という。

 研究者へのデータ提供は、メルカリにもメリットがある。小笠原さんは「メルカリが研究所を作るというと“何で?”と思われるかもしれないが、僕らは“ユーザー体験がよくなる”という前提でデータセットを提供している」と話す。例えば落合さんとの取り組みでは「しっかりと売るものが伝わるように写真を撮りたい」「背景画像を消したり検索しやすくしたい」といったユーザーのニーズに応えられるという。

 また、各機関との研究成果はサービス化するだけでなく、メルカリやメルカリファンド、メルカリ子会社のソウゾウなどから事業化も検討するという。メルカリの山田進太郎代表取締役は「メルカリは今後テックカンパニーを目指す」とし「他社の追随を許さない技術で、プロダクトのアドバンテージを確保する」としている。

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