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自動運転の基幹技術、AIが読む「ダイナミックマップ」とは?(1/3 ページ)

» 2018年02月09日 18時03分 公開
[橘十徳ITmedia]

 2020年までの実用化を目指すシステム主導の自動運転(レベル3以上)。この技術の大きな柱となるのが、クルマの“AIが読む地図”こと「ダイナミックマップ」だ。このダイナミックマップの整備を進めているダイナミックマップ基盤(東京都港区)の中島務社長に詳細と現在の状況を聞いた。

ダイナミックマップ基盤の中島務社長

 人はクルマを運転する際、地図やナビの情報だけではなく、常に自分の目や耳で周囲の状況を把握する。例えば信号の色や工事中の看板、歩行者や他のクルマの動きなど、刻々と変化する情報に対応している。こうした情報が重要なのは自動運転車も同じ。ダイナミックマップは、高精度な3次元地図データに交通規制や道路工事、事故や渋滞といった動的(=ダイナミック)に変化する情報を組み合わせ、自動運転車の認知性能を上げる。その基盤となる高精度3次元地図データの整備を進めているのが、自動車会社や電機メーカー、地図・測量会社などが共同出資して設立したダイナミックマップ基盤だ。

自動車会社や電機メーカー、地図・測量会社などが共同で設立(画像提供:ダイナミックマップ基盤株式会社)

 同社は、16年6月に高精度3次元地図の整備や実証、運営に向けた検討を行う企画会社「ダイナミックマップ基盤企画」としてスタートした。当初は事業化までの期間を2年間と見越していたが、市場のニーズに早急に対応するため事業化判断を前倒し。17年6月に現在の社名に変更し、新たなスタートを切った。

4つの階層を持つダイナミックマップ

 中島氏は、まず「ダイナミックマップとはあくまでも“考え方”であり、そのような目に見える地図が存在するわけではありません」と説明する。通常の地図は一度描いたら固定されて動くことはないが、現実の道路は違う。新たな道路が開通し、道路工事による車線規制も行われるなど、さまざまな状況によって絶えず変化している。このように刻々と変化する道路情報をリアルタイムで集約するものがダイナミックマップだ。

 それは周辺車両や信号など、めまぐるしく変化する「動的情報」と、事故情報や渋滞情報、気象情報など緩やかに変化する「準動的情報」、交通規制情報や道路工事情報など一定期間は変化しない「準静的情報」、長期間にわたって変化のない「静的情報」という4つの階層に分かれている。

ダイナミックマップを構成する4つの階層

 「われわれが整備を進めているのは、全ての情報のベースとなる『静的情報』の部分で、自動車メーカー各社が自動運転において共通に使える地形や道路構造を高精度な3次元位置情報で表したものです。この高精度3次元地図を“協調領域”として各社で共有することで、各社が個別に行うよりも低コストで地図を作成できます」(中島氏)

 例えば、今走行しているのはどのレーン(車線)のどの位置なのか、センサー情報と高精度3次元位置情報とを照合することで、正確な位置を推定しながら走行することが可能になる。また、天候や交通量などが刻々と変化する道路環境において、センサーが認識すべき、道路標識や停止線などの地物をあらかじめ車両がデータベースとして持つことで、道路環境認識の負荷低減や、車両センサーが届かない遠方の情報を先読みできる。

 「世界中にはさまざまな自動車会社がありますが、その中には自動運転を実現するために、『センサーやカメラさえあれば地図はいらない』という考え方を持っている企業もあります。われわれとしては、全てをセンサーやカメラだけに頼るのはリスクが大きいと考えています。センサーの場合、長くて150メートル先くらいまでしか捉えることができないので、例えば長いカーブを走行中に、この先もカーブは続くのか、真っすぐになるか分からなくなる可能性があります。ADAS(先進運転支援システム)くらいの制御であれば地図がなくても可能だと思いますが、自動運転となるとなかなか難しく、そこは地図が補完していく必要があると考えています」(中島氏)

 センサーやカメラを補完することで、より安全かつ確実な自動運転を実現するダイナミックマップ。その役割としては、3つの機能があるという。

地図を利用することで遠方の情報を先読みできる

 「1つは『先読み』。地図を使ってこの先の道路はどうなっているかという情報を得ることにより、どこでスピードを落としてどれくらいハンドルを切ればターンできるのかが分かります。2つ目は『自己位置の推定』で、測位システムで得られた位置情報を地図の上で見ることで、自分の位置を正確に把握できます。そして3つ目が『運転制御』。クルマが中心線に沿って進んでいるか、ブレーキをどこでかければいいのかが分かります。地図があれば、これらの3つの機能を同時に実現することが可能となります。いわば、地図を一種のセンサーとして利用するわけです」(中島氏)

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