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スマホで避妊をサポート 女性の健康を守る「Femtech」市場の可能性“日本が知らない”海外のIT

» 2018年02月26日 10時50分 公開
[水迫尚子ITmedia]

 「Femtech」(フェムテック)という言葉をご存じだろうか。Female(女性)のTechnology(技術)という意味で、女性のヘルスケアをITテクノロジーで解決しようという新しい造語である。

 Femtechは、2013年に月経アプリを開発したドイツ・ベルリンのスタートアップ「Clue」のCEOでスウェーデン人のアイダ・ティン(Ida Tin)氏が、新しいビジネスカテゴリーを示すものとして使ったのが始まりといわれる。この造語をきっかけに、急速に注目を集めるようになった。

連載:“日本が知らない”海外のIT

日本にまだ上陸していない、IT関連サービス・製品を紹介する連載。国外を拠点に活動するライター陣が、日本にいるだけでは気付かない海外のIT事情をお届けする。


 米国のデジタルヘルス投資ファンド「Rock Health」によると、14年、女性のヘルスケアにフォーカスした企業が調達した資金は2400万ドル(約26億円)だったが、15年には8200万ドル(約89億円)にまで飛躍した。同国リサーチ機関CB Insights Researchも、女性のヘルスケアをターゲットにしたスタートアップは14年以降11億ドル(約1196億円)の資金を調達したと報告している。

 ユーザーのみならず、投資家・企業が熱い視線を送っているのがよく分かるが、今や米国や欧州ではFemtechの市場はマーケットマップを描けるまでに成長している。

フェムテック 米CB Insightsより)

Femtech、台頭の背景

 Femtechという造語によって今までにない全く新しいカテゴリーが誕生したと思うかもしれないが、それまでにも女性ヘルスケア市場は米国で30億ドル(約3260億円)規模で存在していた。そこにITテクノロジーが融合し、診断や分析ができるソフトウェアやアプリ、商品・サービスなどビジネス範囲が飛躍的に広がった。ITの発達によって新しい金融サービスが可能になったFintech(ファイナンシャルとテクノロジーの造語)と同様の流れである。

 さらに、ここ数十年の社会における女性の役割の拡大も大きく影響しているだろう。10年頃の米国新聞紙で既に使われていた “she-conomy”(女性の経済)という言葉が示すように、購買力の増加により、間接的ではなく直接的に経済に影響を与えるようになっている。また、Femtechが閣僚の女性比率52.2%というスウェーデンのアントレプレナーから発せられたというのも象徴的だ。我が国のように「全ての女性が輝く社会づくり」を声高に唱えずとも、すでに女性が活躍する社会が形成されていたのである。

Femtechサービスの代表格

 どのような商品が開発されたか、例を3つ挙げてみよう。

Clue

 生理サイクル予測アプリ。前述したティン氏が多くの女性との対話を重ね、データを蓄積してアプリを開発した。次の生理日、妊娠しやすい日、気分や体調が不安定になるPMS(月経前症候群)を予測する。利便性だけではなく、ピンクなどのガーリーなイメージを避けた色使い、スタイリッシュなレイアウトにもこだわっている。現在、日本語も含め15カ国語に翻訳され、500万のユーザーがいる。

フェムテック

Carinwear

 世界最小のウェアラブルセンサー、アプリ、ショーツの3点セットで尿漏れ解消をサポートする。出産などで弱った骨盤底筋が尿漏れの原因の1つで、多くの女性が悩みを抱えているという。カリンメジャーというウェアラブルセンサーをスマホやタブレットと同期させてショーツの内側に装着すると、漏れた尿の量や動作を検知してデータがアプリに送られる。カリンエクササイズアプリで体幹、骨盤底筋のトレーニングを行い、2週間1サイクルで改善がチェックできる仕組みだ。オランダの企業LifeSense Groupが開発。

フェムテック

Natural Cycles

 スウェーデンのストックホルムに本社を置くNatural Cyclesのスマホ避妊アプリ。毎朝ベッドから出る前に基礎体温計で体温を測り、アプリに入力。月経やLHテスト(排卵日予想検査)などの追加データ加えてアプリがデータを分析、妊娠しにくい日を緑、妊娠しやすい日を赤で表示する。平均年齢29歳の女性2万2785人、22万4563の月経周期を分析、ピルのような副作用の心配なく高い避妊率を誇る。医療機器の品質保証の国際標準規格ISO13485を取得している。

フェムテック

IoTヘルスケア市場の拡大とFemtechの成長

 米国大手リサーチ出版会社MarketsandMarketsによると、IoTヘルスケアの世界市場は17年で412億ドル(約4.48兆円)規模、22年までには4倍近くの1580億ドル(約17兆円)までに成長すると予測されている。

 Femtechもここ2〜3年で急速に成長したが、ニッチ市場という認識がいまだに強く、国によっては文化や社会背景により、女性のヘルスケアを表舞台に出すことに抵抗感があったり、タブー視されていたりする現実もある。

 しかし、世界の男女の人口比率は大まかにいって半分。確かに月経や避妊、閉経などの問題は女性特有だが、前述した経済における女性の影響力の拡大、人口比率を俯瞰してみれば、決してニッチではないことが分かるはずだ。Femtechのポテンシャルは計り知れない。

執筆:水迫尚子

編集:岡徳之(Livit


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