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知られざる「ダークウェブ」の世界 ネットの“裏”で何が起きている?ロシア語圏を新たに調査(2/2 ページ)

» 2018年05月10日 18時30分 公開
[Sh1ttyKidsITmedia]
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ダークウェブ最古のマーケット「WayAway」

老舗ダークウェブマーケット「WayAway」

 さて、ここからロシア語圏の話に戻していきます。先に挙げた、(1)コミュニティーの寿命がとにかく長い、(2)フォーラム型のマーケットが多い、(3)利用規約がしっかりしている――をよく体現しているダークウェブサイトとして挙げられるのが「WayAway」です。

 WayAwayは09年ごろから現在まで約9年間存在している最古のダークウェブマーケットで、ユーザー数も15万人以上と最大規模です。マーケットの形式としてはフォーラム型を取っており、ベンダー(売人)が掲示板に自分の売りたいものの詳細と値段、連絡先を書き込み、それを見た買い手が売り手に連絡をし、交渉を行って売買を成立させるという形になっています。ベンダーと買い手は必要に応じて「エスクローサービス」(※)を利用して自分のお金を安全に保ちます。

(※エスクローサービス:売り手と買い手の間を仲介し、代金と商品の安全な交換を保証するサービス)

 利用規約もしっかりしています。例えば英語圏のマーケットや掲示板では、売ってはいけないもののリストや規約を破った際に罰則があるという程度のものです。一方ロシア語圏では、それらを破った際の措置はもちろん、売るもののクオリティーによって表記を変えるようにしたり、規約を破ったときの罰金などについても金額までしっかりと記述したりしています。

 フォーラムには、WayAwayのサイト自身についての議論や、信頼できる売人の情報、薬物関連の議論、ロシア国内への郵送や独立国家共同体(ロシア、ベラルーシやアゼルバイジャンなど10カ国からなる共同体)諸国からの購入についての他に、求人情報やコミュニケーション用のスレッドなどが存在します。

直感的UIのHydra

Hydra

 WayAwayとパートナーであるHydraは、フォーラム型のWayAwayと違い、マルチベンダー型のマーケットになっています。UIがとても優れており、直感的に使えるようになっています。

 プロフィールページを見てみると、注文の監視や二要素認証の設定、アバターの追加変更などもできるようになっています。UIの配色も変更できます。他のユーザーとチャットするため、独自のプライベートメッセージングシステムも付属するなど、Web開発能力の高さをうかがわせます。

RuOnion

RuOnion

 ダークウェブ関連の専門ニュースサイトで、ロシア語版DeepDotWebともいえます。扱っているのはニュースの他、VPNや接続経路の匿名化についての情報など。ロシア国内ではTorの使用が難しくなってきていることから、ダークウェブへの接続を続けるための情報が活発にやりとりされています。

ロシア語圏のダークウェブとTelegram

Telegram

 4月13日に、ロシア当局はロシア発のメッセンジャーである「Telegram」で使われているIPアドレスをブロッキングしました。Telegramはメッセージを暗号化し、プライバシー性を担保していることから、犯罪などの際に連絡で使われている側面があったからです。

 ロシア当局は解読を試みましたが、Telegramは独自のプロトコルを使用し強力に暗号化していたため解読ができませんでした。そこで裁判で秘密鍵を提出させようとしましたが失敗し、いっそのこと使用しているIPアドレス群をブロックして使えなくすればいいという判断に至り、ISPがブロッキングに踏み切ったという経緯です。

 しかし、複数のメディアがブロッキングを回避する方法などを公開し、利用者は簡単にブロッキングを回避できるようになりました。そもそもロシア国民の情報リテラシーは非常に高く、VPNやSOCKSプロキシ(Webアクセス以外にも適用できるプロキシ)を利用しておりブロッキングは全く意味がありませんでした。そこでロシア当局は、50ものVPNサービスやその他の匿名化サービスのIPアドレスのブロッキングを行いました。

 ロシア語圏のダークウェブでは、情報の発信や他者との連絡によくTelegramが使われています。上記にあげたHydraでもBotで情報を発信していたり、Bitcoinのミキシングサービスでも同様にTelegramのbot経由で情報発信したりしています。このようにダークウェブでも使われていることも、ブロッキングを行った理由の1つではないかと考えています。

 これに関してはロシアだけの話ではなく、日本でも同様の動きが出てきています。NTTが海賊版サイトのブロッキングを行う方針を発表しました。ブロッキングを行っている他国では、政府に対して都合の悪いサイトにもブロッキングを行うなど、本来の目的とは明らかに逸脱した使い方もされています。

(訂正履歴:2018年5月10日午後8時更新 国内のブロッキングに関する表現について修正しました)

 引き続き、ダークウェブや情報セキュリティの情勢を調査・監視していきます。

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