ITmedia NEWS > AI+ >
ニュース
» 2018年05月22日 06時00分 公開

これからのAIの話をしよう:「日本人は働きすぎ」 AI失業時代、ベーシックインカムで解決を 井上智洋さんに聞く (2/3)

[松本健太郎,ITmedia]

BIにデメリットはあるか

松本さん

―― 政府が国民に対してお金をばらまくという政策は、例えば定額給付金や地域振興券など過去何度かありました。そうした政策とBIは何が違うのでしょうか。

 お金をまくというのは、BIの一側面です。定額給付金や地域振興券などは給付額が小さく、それだけで生活はできません。あくまで景気を良くするための政策で、最低限度の生活を保障する政策ではありません。

 ギリギリでもいいので、生活できる金額が給付されることが大事です。景気を良くするだけなら、貧しい人に対して集中的に給付した方がいいでしょう。しかし、それには“貧しさ”の線引きをしなければならず、その作業自体が困難です。

―― BIは良い事ばかりのように聞こえますが、デメリットはありますか。

 制度の抜け穴を悪用する人は絶対にいます。例えば、子供をバンバン作って(編集部注:国民全員が給付対象なので、赤ちゃんも対象)お金だけもらって育児放棄するケースや、親が亡くなっているのに死亡届を出さず不正受給するケースが考えられます。しかし、後者のような不正受給はこれまでもありましたし、制度そのものがもたらす悪影響は無いのではないかと考えています。

―― より良い社会保障制度を目指すため、BIを提案している。なぜこういった議論はなかなか進まないのでしょうか。

 社会保障制度に限らないと思いますが、日本人はあまり制度を変えようとは考えないのかもしれません。BIの場合、ネット上では議論が白熱していますが、普段ネットにすら触れない人たちは、そもそもBIを知らないでしょう。

 よく日本は課題先進国だといわれますが、実は政策後進国だという見方があります。制度を変えれば課題が解決するのに、政策で対応しないから課題ばかりが積もっていくのです。

BIは負担が増えるわけではない?

―― BIの実現方法も気になります。井上さんは月7万程度の給付を想定されていますが、それには年間100兆円の財源が必要になります。そんな財源はどこにあるのかという声もありますが。

 「そんな財源ないだろう」という反論はよく聞きますが、問いの立て方が間違っています。それだけの財源を必要とするのであれば、もうかっている人から今まで以上に税金を徴収するしかないでしょう。「それだけ多くの税金を取られると、お金持ちは文句を言いますよね。それにどう対応しますか」という反論の方が正しいと思います。

 そもそも、「BIで負担が増える」と思っている人が多くいます。しかし、BIは国民が税金を払って国民が給付を受けるだけなので、国民を一枚岩に見立てると平均してプラスマイナスゼロになるはずです。お金が出て、戻ってくるだけで、循環しているだけなんです。経済学者のミルトン・フリードマンが唱えた「負の所得税」と等価だと考えればいいでしょう。

対談

 ちなみに、財源論の1つとして、BIを積極的に発言している人からは「相続税を100%にすればいい」という話も出ています。しかし、相続税はいくらでも逃げ道があります。もし生前贈与が主流になったら、今度は贈与税を上げるのか。いたちごっこになるだけではないでしょうか。

―― 「BIが無いAIの時代」を迎えると、失業する恐怖におびえ、せっせとお金をためながら暮らしていくことになりそうです。なんて生きづらい社会になるのかと感じました。そうなると、経済全体にも悪い影響が出てきますか。

 指摘の通り、BIは経済にも密接する問題です。失業者や低所得者層が増えると、消費が落ち込み、需要が減り、経済が回らなくなる可能性があります。AIが活躍すれば供給力はむしろ上がるのに、需要側の要因によって経済が大きく縮小するかもしれません。

 消費が落ち込めば、お金持ちももうからない。稼いでいる人により多く税負担してもらう動機にもなります。

―― では「BIがあるAIの時代」を迎えると、私たちは働かずに生きていけるのでしょうか。そうなると、経済成長なども考える必要はないのでしょうか。

 経済成長を考えなくていい時代とは「これ以上は消費を増やさなくていいよね」という完全飽和の状況を意味しています。ですが、ほとんどの人が「月7万円だとやっぱり少ないよね」と考え、仕事に就くのではないでしょうか。

 もちろん、地方などに行けば7万円でも生活するのは可能で、「7万円では生活できない」という人は視野が狭すぎるのではないかと思います。もし経済成長で経済が大きくなると、それを原資にBIの金額を上げられます。経済成長とBI、この2つはセットで考えるべきです。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.