人工知能(AI)の研究を進めるほど、人間の研究に否が応でも取り組まざるを得ない。これは多くの人工知能開発に携わる研究者が口にする言葉です。
ある問題に遭遇すると、なぜ人工知能はできないのかを考えるより、なぜ人間はできるのかを考えた方が再現性は高く確実です。しかし、そもそも人間が「なぜできるのか」を言語化できていない場合も多く、人工知能と人間の研究を交互に行う機会も少なくありません。
例えば芸術家は他の人と同じように生きているはずなのに、なぜずぬけた創造性を発揮できるのでしょうか。理論的に説明できる人は少ないと思います。
「ディープラーニングはブラックボックスだ」と批判する人も大勢います。しかし、人間だって行為の多くがブラックボックスで、なぜできるのかを説明できません。少し不公平ではないでしょうか。
そこで今回は、「STORY」「美STORY」(現美ST)、「DRESS」などの女性誌を創刊して編集長(当時)を務め、「美魔女」という極めて優れた言葉を造り出した編集者の山本由樹さん(参考リンク:アミューズ、山本さんが社長を務める「編」)と、AIコピーライター「AICO」や「人狼知能」、「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトなどに携わり、自然言語処理の研究を行う静岡大学情報学部行動情報学科の狩野芳伸准教授(参考:研究内容)による、「人工知能は人間と同じような創造性を発揮できるのか?」をテーマにしたディスカッションをお届けします。
(編集:ITmedia村上)
――(聞き手、松本) 光文社の女性向け美容雑誌「美STORY」(現・美ST)の編集長だった山本さんは「美魔女」という言葉を生み出し、社会的なブームを起こしました。創造性の極みのような「美魔女」というフレーズを、人工知能でも生み出せるのかが今回のディスカッションの趣旨です。まずは、どういう経緯で言葉が生まれたのかを教えてください。
山本さん(以下、敬称略) 40代向け女性ファッション誌「STORY」という雑誌の編集長をしていたころ、45歳以上の読者が減るという現象が起きていて、その理由を知るためにインタビューをしました。そこで、45歳の成城に住んでいる品の良い奥さんがこう言ったんです。
「自分が若くあるために、洋服じゃなく美容にお金をかけるようになった。洋服だといくら若くしても、逆に自分の老いが目立ってしまう。洋服は来年着られるか分からないけど、美容は来年の自分のための投資になる」
彼女は月に5万円ぐらいを美容に投資していました。そのときに45歳以上のための美容誌を創ろうと考えました。それから「美STORY」の創刊準備が始まります。
ある日、40代女性の写真を並べて記事の構成を考えていました。みんな若いんです。ふと「この人たち、何やったらこんな若くてキレイなんだ?」と聞くと、取材に行った記者が「みんな何もしていない」って言うんですね。
何もしていなくて、こんなに若くてキレイなのは本来ならあり得ません。「もし本当に何もしていないなら、魔法を使っているんじゃないのか?」と考えました。その瞬間に「魔法を使っているならみんな魔女だよね。美しいから、美魔女にしよっか」と。
―― 美しいとは言いますが、魔女という言葉が持つイメージは「老婆」です。捉えようによっては悪口になってしまいます。「美魔女」と呼ばれるようになった美し過ぎる40代女性は、当初どのようなリアクションだったのでしょうか。
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