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人工知能は「美魔女」という言葉を生み出せるか 雑誌編集者×AI研究者、異色対談これからのAIの話をしよう(言語編・前編)(3/4 ページ)

» 2018年05月30日 06時00分 公開
[松本健太郎ITmedia]

狩野 自然言語処理研究の一環として、ネーミング生成があります。例えば「美しい」「魔女」などキーワードを入力すると、いろんなパターンが出力されます。パッとみると、イケてるというか、人間が見ても「いいかな」と感じるフレーズが多くあります。

AI 狩野准教授が開発した人工知能(AI)による「ネーミング生成」ツール。「直接フランケンシュタイン」というパワーワードが飛び出す

――  「直接フランケンシュタイン」と出てきました(笑)。すごい言葉ですね、人間ではまず思い付かない。どういう風に言葉を作り上げているんですか?

狩野 裏側では、コーパスと呼ばれる大きなテキストデータを作り上げています。今回の場合、「美しい」と「魔女」の組み合わせから連想される、意味的に近そうなフレーズを出力している。

 後でお見せする人工知能によるキャッチコピー生成もそうなのですが、機械的には失敗でも、人間から見れば意味不明なキーワードの組み合わせが「面白い」と受け止めてもらえることがある。われわれから見ればありがたいですが。

山本 そういう意味では、僕は「機械的には失敗」を目指しているような気がします。今見せてもらった内容は、僕のやっていることと近しい感じがする。

狩野 やりこみ過ぎるとダメだね、とは言われています。このツールは、意味自体は何も考えていなくて、量産を目的にしています。でも、人間の場合は出力結果の「解釈」をしてしまう。システムも「解釈」はできるようになっていますが、人間ほど深く考えてはいないです。

―― 意味自体を考えていないからこそ、人間の捉える意味とは違う言葉が出てきて「面白い」となるんですね。山本さんも、「美」と「魔女」の2つを組み合わせて意味を創ろうとしたわけではないですよね。

山本 美魔女と呼ばれるような人たちに対して、明確な目的意識をもってレッテルを貼ろうとは思っていませんでした。「あぁ、魔女だな」というだけで。

 ロジカルに言葉を生み出すには、例えば全然逆のものを融合させる、今あるところから違う場所・違う人にずらしてあげるなどがあります。でも、これだと突き抜けないし、人が驚くような言葉を作り出せない。そういうときは集中せず、論理的に考えないんです。

―― 真逆の言葉を組み合わせる、ちょっとずらすという発想法が紹介されましたが、それは人工知能でも再現できそうでしょうか?

狩野 真逆とは言いますが、同じジャンルの中での真逆ですから、実は真逆ではないんです。しかも、案件次第でジャンルの定義も変わってくる。それを機械に教えるとなると、結構大変です。

 例えば「おいしい」「お茶」と入力すると、「あとお茶」「悪いお茶」「茄子ウイスキー」などいろいろな組み合わせが出てくるが、お茶の真逆が何かはよく分からない。ただ、このシステム自体がコピーライターの作業を助けることには役立つと思っていて、ここから発想を得てもらいたいと思ってます。

AI 「おいしい」「お茶」と入力すると、いろいろなネーミングが生成された

山本 すごく良いですよね。こういう人工知能がいると、僕らの生産性がだいぶ上がるだろうなと思います。

意図的に壊す人間、最初から壊れている人工知能

―― 紹介いただいたシステムは、人間を代替するものというより、人間をサポートするもの、人間の発想を広げるためのものと理解しました。山本さんはキャッチコピーも書かれていると思うのですが、それは先ほどの思考法と同じですか?

山本 目標は同じですが、意味をどう持たせるのかは、センテンス(文)になってくると難しいですよね。「私は、思う。」と「思う、私は。」だけでも、受け取るニュアンスが違いますから。そういう構成に悩みますね。

狩野 人工知能の場合、単語を作るだけの方が簡単なんです。文章にすると、文法の問題があってすぐに文章を作れません。一番難しいのは「てにをは」です。やってみましょう。「美魔女」と入力すると……。

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