山本 喜んでましたよ。雑誌の中では前面に押し出しましたしね。地方に講演へ行ったとき「美魔女って呼ばれているんです」「美魔女目指して頑張ってます」と報告してくれる女性たちに出会う経験をして、いよいよ浸透してきたなと。
「美STORY」を読んでいる一部の読者だけでなく、人それぞれの価値観の中で「若く美しくありたい」という女性の目標みたいになっているなと感じました。
狩野准教授(以下、敬称略) 美魔女という言葉が作られるまで、他に候補はあったのでしょうか?
山本 無いですね。パッと出ました。「美」という言葉はすごく便利で、何にでも「美」と付くとそれっぽくなるんですよ。例えば……“美スマホ”とか(笑)。
「魔女」というマイナスの価値観に、「美」というプラスの価値観が組み合わさることで違う価値観になって、良い言葉ができたなと思いました。マイナスのイメージがあるからこそ残る言葉があるんです。「美しい読者モデル」だと、誰も振り向いてくれないでしょう。
美魔女という言葉が生まれる前、40代以上を褒める言葉として「熟女」がありました。でも、美熟女だと……呼ばれる方が嫌ですよね。
雑誌の中での流行語は今までいっぱい作っていましたが、一般人も巻き込んで流行語になるようなプロモーションをすることになりました。美魔女に一番遠い存在って何だろう? と考えたら、男子高校生だったんです。だから、男子高校生が美魔女という言葉を使うようになるまでプロモーションしようと決めて、いろいろやりました。
―― その結果、2012年に「美魔女」は流行語大賞の候補50語に選ばれました。それにしても、他の人も同じ写真を見たり同じ話を聞いたりしているはずなのに、なぜ山本さんは「美魔女」という言葉が生み出せたのでしょうか。どういう発想法なのか気になります。
山本 雑誌を作ろうと調べてみると、化粧を楽しみ輝いて見える20代の美容誌はあっても、輝かなくなってから読むアンチエイジングのための40代の美容誌は無いことが分かりました。でも、それだけじゃダメで、読む対象を見える化しないといけないんですよ。
ジッと観察していると、40代で結婚している、美容を諦めていない人たちという「魚影」が見えた。この人たちを言葉で表し、顕在化しないといけない。でも、その影を「美しい読者モデル」「美熟女」と表現してもピンとこないですよね。そのときに良いキーワードを見つけることで、魚影が顕在化するんです。
発想自体がどこから生まれるか。魚影を見ているときに、何となく感じるものがあります。例えば、電車に乗ると目の前に女の子がいたり、テレビから聞こえてくる声があったり、何となく世の中をいつも見ている。そうして受け取った情報が、ある日横串になってつながっていき、キーワードになるんです。
狩野 コピーライターさんから聞いたのですが、入社後最初の仕事は写経と称してひたすら有名なコピーを書くことだそうで(笑)。書く過程で「これは使えるんじゃないか」と頭のどこかにストックしているんだと思いますね。例えば「美」をつけると何か良い、とか。それがある瞬間、横串になってつながるのかもしれません。
山本 抽象的な思考の中に、ある日突然、具体的な言葉が「降ってくる」んです。しょっちゅう言葉を考えているんですけど、A地点からB地点まで行こうと思って考えるより、考えられる言葉を全て書き出して、その辺に置いていったん忘れる方がいい。寄り道しているんですよね。
ネットで違う記事を読んで、意識を集中させないようにしたり。いったん言葉から離れて、違う言葉が生まれる瞬間を待つ。寄り道する思考の中に、ひらめきがあるんです。寄り道できるような知識をどれだけ蓄えているか。全然違うものが頭の中でつながることで、新しいものが生まれるんです。
―― 魚影を捉えて、キーワードを作る。果たして、同じようなことを人工知能が再現できるでしょうか。
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