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著作権保護期間はホントに70年になる?(1/3 ページ)

» 2018年07月09日 15時32分 公開
[小寺信良ITmedia]

 デジタル社会において、著作権をどのように位置づけていくかについては、様々な論点がある。論点があるということは、すなわち現状うまくいっていないということでもある。

 とまあこのように指摘すると、現状がだめなら積極的に法改正すればいいじゃないか、現状にあわせてどんどん革新していくべき、と多くの方は考えるかもしれない。だが著作権法改正議論は、改革派のほうが先進的とは限らないのが難しいところだ。

 例えば著作権保護期間を何年にするか、という話である。日本では映画を除けば、著作者の死後50年と決まっている。これをもっと延ばせという派閥と、今のままがいいとする派閥のせめぎ合いが、筆者が知るだけでも10余年続いてきた。

 戦前の旧著作権法では、保護期間が死後30年となっていたが、1960年代に入ってから小刻みに延長され続けてきた。現在のように原則50年に落ち着いたのが、1971年のことである。

 近年の保護期間に関する議論の焦点は、現状維持(50年)か、70年延長かであった。70年というターゲットは、1993年、ヨーロッパがEU統合に合わせて70年に統一したことと、これに対抗する形で米国が1998年に70年に延長したことに由来する。つまり著作権の保護期間は、元々国によってバラバラなものなのだ。

 このあたりから、先進国は皆70年ならこれに倣わないと日本は先進国とは言えないとか、保護期間が長い方がなんとなく著作者が手厚く保護されている感じがするとか、保護期間の長さが揃わないと国際契約に支障が出るといった考えが生まれてきた。

 だが2000年代に入り、本当にそうなのか検証する人たちが次々に現れた。延長問題に関する情報ポータルである「著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム(think C)」によれば、検証結果は3つのポイントに絞られる。

ポイント1:日本は元々著作物に関しては、輸出よりも輸入のほうがはるかに多く、それなら日本の保護期間は短い方が得だ、ということがわかった。なぜならば、著作物が国を渡った場合、その保護期間は渡った先の著作権法によって決まるからである。

 つまり日本の著作物は欧米に渡れば70年で保護されるが、欧米の著作物が国内に渡ってきたら保護期間は50年に短縮される。つまり日本では、欧米の著作物は現地よりも早く無償で利用が可能になるのだ。これはオイシイ。

ポイント2:保護期間を長くしても、儲かりゃしないということがわかった。死後に1冊でも著書が再版される著者は約50%、しかも死後数十年経つと、保護期間が残っているのにほとんどが出版されなくなる。ごく一部、たった2%の作品に再版の可能性があるのみだ。これをあと20年延長しても、得られる利益はほとんどない。そもそも出版されないのだから、利益の産みようがない。

ポイント3:海外とのコンテンツ販売契約において、保護期間が違うことで契約に調整が必要になったことなどないということがわかった。双方とも、「そういうもの」として先へ進めるだけで、法律を変えろとか、その分条件を付けるという話にはならないということである。つまり、国際貿易において、保護期間の違いは障壁になっていないため、貿易不均衡も起こっていない。

 こうした検証の積み重ねにより、保護期間を延長することにメリット無しとして、民間では一定のコンセンサスが得られていた。

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