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「昔は泥臭い作業だった」 トンネル点検にAI、東京メトロが土木を“スマート化”(1/2 ページ)

» 2018年07月20日 12時01分 公開
[村上万純ITmedia]
小西さん 東京地下鉄(東京メトロ)の小西真司さん(鉄道本部 工務部 土木担当部長)

 「(トンネル点検は)昔は泥臭い作業だった。それをiPadやデータなどを活用して格好良くしていきたい」――東京地下鉄(東京メトロ)の小西真司さん(鉄道本部 工務部 土木担当部長)は、こう話す。同社は、人力でやっていたトンネル点検を、iPadやクラウドサービスを導入して効率化し、今はAI(人工知能)を活用した実験にも取り組んでいる。

 同社は、9路線195.1キロの地下鉄を運営。1日の利用者は724万人に上るという。路線の約85%はトンネルで、約140人の土木担当者が日々の点検を実施。日常的に検査と補修をしながら、必要に応じて大規模な修繕をしている。

 10年前は、作業員がトンネルの中を歩き、1メートル間隔で検査内容を紙に記録。それを基に、事務所のPCで検査内容をExcelに入力するといった、途方もない作業をしていたという。これらを効率化するため、まずはiPadやクラウドサービスを使ったIT化を進めた。

業務量は5分の1、情報共有スピードは格段にアップ

 iPadでは独自のアプリを使用。前回の検査データを参考にしながら検査箇所をiPadで撮影し、データをそのままサーバに送る。以前は3カ月掛かっていた本社との情報共有は1日に短縮され、検査業務量は5分の1に減ったという。また、手書きのときは「ひび割れ」「クラック」など人によって記録内容にばらつきがあったが、タップ操作で「変状」(ひび割れなどの構造物の異常)を選ばせることでこれも解消した。

点検 メリハリの効いたトンネルの維持管理を目指している

 同社が次に目をつけたのが、老朽化した箇所の補強や予防保全などを行う「大規模修繕」の業務改善。AIを使い、トンネルでひび割れなどが起こりやすい場所を予測するとしている。

AIが予測し、人間がチェック

 大規模修繕にデータを活用するため、同社では本社社員、現場スタッフ、関連会社を含めた分析会議を実施。そこではベテラン社員の経験や知識の他、検査データを基に変状が集中している場所を可視化したデータなどを共有する。また、検査データを統計分析してトンネルの“健全度”を定量評価。場所だけでなく時系列も参照し、ひび割れなどのリスクが高い場所を算出する。

分析会議 大規模修繕にはデータを活用。分析会議で話し合う

 今後はデータの統計処理に加え、画像認識技術による剥離箇所の自動抽出、赤外線データ(コンクリート内に空洞があると温度差が出る)なども活用し、変状を予測。剥離の観測確率が50%を超えた箇所に人間が出向き、ハンマーで打音して検査するという。これまでは目視主体で見逃しの可能性もあったが、それをAIでフォローする。

分析会議 使用するデータ
打音 データ解析で剥離箇所を予測する

 同社では、プロジェクトを主導する三浦孝智さん(鉄道本部 工務部 工務企画課 課長補佐)をはじめ、15人ほどの社員が産業能率大学でデータサイエンスの研修を受けているという。

 データサイエンスはデータに関する研究を行う学問のことで、産業能率大学の研修では、ビジネスの現場で活躍できる社内データサイエンティストの育成を目的としている。そのため、まずは基礎となる統計学の知識を身に付け、データ解析の流れ(目標の設定、データの収集と解析、結果の評価、施策の展開)を理解することに重きを置く。

 その次に、ディープラーニングや決定木といった機械学習の手法を学び、最後にそれを実現するためのプログラミングを学ぶという流れだ。

データ データ解析の流れ

 三浦さんは、「少子高齢化で、会社の収益や技術者の確保がそれぞれ難しくなるため、メリハリの効いたトンネルの維持管理をする必要があった」と、データ活用の背景を語った。

 東京メトロのプロジェクトに協力した産業能率大学総合研究所の福中公輔さんは、「東京メトロさんの例は、データサイエンスの成功例といえる」と話す。

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