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4年前の「AIがチューリングテスト合格」騒動は何だったのか(1/3 ページ)

» 2018年07月26日 06時00分 公開
[松本健太郎ITmedia]

 「人間と同じ知能を持った人工物を作る」という人間の夢は、古くはギリシャ神話、錬金術、機械人形など、さまざまな形で実現しようとしてきました。

 1940年代ごろから手法として「コンピュータ」が適切ではないかという議論が行われ、いろいろな実験が行われるようになります。56年にダートマス会議が開催されると一気に人工知能開発の黄金時代を迎え、その後は皆さんご存じの通り2度のブームと2度の冬の時代を乗り越えて、現在第3次ブームが到来しています。

AI

 ところで、人工知能が完成したとして「人間と同じ知能を持つ」とどのように証明すればいいのでしょうか。

 この難題の解決策として、「あるテーマで人間と戦い、人間に勝つ」ことを目標にしました。なぜなら同じルールの下で人工知能が人間に勝てば、人間のような知能があるとも言い換えられるからです。その結果、チェス、クイズ、将棋、囲碁などの分野でゲームAIが作られ、人間は負け続けました。

 しかし、今のところは「チェスにおいては」「クイズにおいては」というただし書きが付く程度です。なぜなら「将棋に勝てる知能」とは知能全体を意味しないからです。

 人工知能が進化するにつれて、人間ですら思い付かない最短ロジックを発見しても、「※ただし将棋に限る」のではあまりに汎用性に欠けます。

 そこで新たな“未踏の地”として選ばれているのが、例えばRoboCup(ロボカップ)が掲げる「2050年までに(人間のサッカーのルールで)ワールドカップ優勝チームに勝つようなロボットのチームを作る」といった、頭脳だけでなく肉体も駆使した壮大な目標(グランドチャレンジ)です。

 一方で、「知能」をトコトンまで追求して考える、例えばチューリングテストのような実験の合格はなかなか注目を集めていません。なぜでしょうか?

疑惑の「チューリングテスト合格」

 チューリングテストは、1950年に数学者アラン・チューリングが提唱した知能に関する実験です。チューリングについては、その生涯が「The Imitation Game」(邦題:イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密)と題して映画化されたので、ご存じの方も多いでしょう。

 実験内容は人工知能学会の説明に詳しいので省きますが、要は「人間とコンピュータそれぞれの対話を通じて、どちらが人間かを見抜く実験」だと考えれば良いでしょう。

 コンピュータが人間と間違われるほど対話の精度がいいのであれば、もはやコンピュータには知能があるといえるはずです。

AI チューリングテストとは(人工知能学会より引用

 最近では、Twitterの発言の一部にbot(機械による自動出力)を織り交ぜて、全て人間が発言していると受け手が錯覚すれば、チューリングテストに合格したと見なすなど、幅広い意味で使われるようになってきました。

 文章の自動生成自体は、Tensorflow+Keras(それぞれ機械学習ライブラリ)によるRNN(再帰型ニューラルネットワーク)や、マルコフ連鎖などさまざまな手段があります。機械化は意外と難しくありません。

 しかし、“未踏の地”としてチューリングテストが注目を集めていないのは、そうした簡易さよりも、既にチューリングテストに合格する人工知能は登場していると皆さんが思っているからかもしれません。

 14年6月8日、英国レディング大学で実施された実験において、ウクライナ在住の13歳の少年という設定の「Eugene Goostman」なるスーパーコンピュータが、審査員の30%以上に「人間である」と間違われ、チューリングテストに初めて合格したとして話題になりました。

ボット チューリングテストに合格したとされる「Eugene Goostman」

 改めて考えたいのは、本当に「Eugene Goostman」君という設定のスーパーコンピュータは、チューリングテストに合格するほどの知能の持ち主だったのかということです。

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