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もしかして「日本人に一番近いAI」になる? LINE「Clova」のココに注目体当たりッ!スマート家電事始め(1/4 ページ)

» 2018年08月02日 15時01分 公開
[山本敦ITmedia]

 LINEが6月末に開催したプレスカンファレンスで、独自のAIアシスタント「Clova」のこれからに向けた数々の施策を発表した。その内容はディスプレイ付きスマートスピーカー「Clova Desk」を今冬に発売することにとどまらず、AIの「声をカスタマイズ」するための新しい技術や、トヨタ自動車と連携して車載向けAIプラットフォームを強化していくことなど多岐にわたっていた。LINEの本社を訪ね、Clovaを担当するキーパーソン達に今後の展望を聞いた。

 取材に応じてくれたのは、LINEのClova事業の“顔”である取締役 CSMOの舛田淳氏、Clovaの開発を統括する橋本泰一氏、音声認識技術担当の平村昇子氏、音声合成技術担当の立花綱治氏、ならびにオートモーティブ関連のClova開発を担当する神門宏明氏だ。

Clovaを担当するLINEのキーパーソンが集結。中央が取締役 CSMO(最高戦略・マーケティング責任者)の舛田淳氏、左端がClovaセンター Clova開発室 VA開発チームの平村昇子氏、左から2番目がData Labs Clovaセンター Clova開発室 VA開発チーム マネージャー/博士(工学)の橋本泰一氏、右端がSearch&Clovaセンター Clova開発室 VA開発チームの立花綱治氏、右から2番目がClovaセンター Clova事業企画室 Clovaアライアンスチームの神門宏明氏

他社にない立ち位置を築いてきた「LINEのスマートスピーカー」

 LINEは2017年春にバルセロナで開催されたイベント「MWC2017」で独自のクラウドAIプラットフォームであるClovaの開発を発表。同じ年の夏にClovaを搭載した初めてのプロダクトであるスマートスピーカー「Clova WAVE」を先行体験版としてローンチし、10月5日に商品として正式に発売した

 その後もClova搭載のスマートスピーカーは、コミュニケーションアプリのLINEでおなじみのキャラクター、ブラウンとサリーをモチーフにした「Clova Friends」と、その小型モデルの「Clova Friends mini」へと順調に拡大してきた。まずはスマートスピーカーへの反響と手応えを舛田氏に聞いた。

Clova WAVEの発売から間もなく1年。ラインアップが充実したClova搭載のスマートスピーカー

 「国内スマートフォンユーザーに対するLINEアプリのアクティブユーザー比率は現在およそ90%に到達しています。スマホがハードウェアとしての成熟期を迎え、この先はIoTに向かうといわれていますが、“ポスト・スマホ”の時代には『音声』と『カメラによる画像認識』、2つの新しいユーザーインタフェースが重要な役割を担うとみています」(舛田氏)

 LINEは、VUI(Voice User Interface)の時代をリードするためAIアシスタント「Clova」を独自に開発する道を選択した。舛田氏は「実際の言語処理やAIに関わるさまざまな要素技術の資産は既にグループの中にあったものの、1つのAIプラットフォームの形になっていませんでした」と当時を振り返る。17年6月ごろに初めてClovaのデモンストレーションを公開した時は、まだClovaの開発プロジェクトが立ち上がってから1年もたっていなかったという。それほどのハイスピードで開発を進めた。

筆者宅で活躍するClova WAVE。AIアシスタントの会話はメキメキと上達してきた

 「急速に立ち上げたプロジェクトだったこともあって、私たちが最初のスマートスピーカーであるWAVEを発売した時には、ハードだけでなく中に入っているClovaというAIソフトも十分な品質ではありませんでした。だから私たちも“先行体験版”として販売をスタートしたわけですが、その時点からユーザーの皆さまと一緒に成長していくデバイスとして、今までの家電とは少し違うスタンスでAI搭載スマートスピーカーを位置付けています」(舛田氏)

 最初のプロダクトであるClova WAVEで経験を積み、17年12月には製造コストを下げて「Clova Friends」を投入。そしてキャラクター型のスマートスピーカーがAIアシスタントとしてのClovaの立ち位置に新たな変化をもたらすことになる。

 「LINEのスマートスピーカーを誰が買うのかと考えた場合、まずはガジェット好きのアーリーアダプターの方々であることは間違いないのですが、他にもLINEというブランドに引かれて、女性や若い方、子供を持つ主婦層がClova Friendsに関心を持っていることが見えてきました。キャラクター性やLINEを使ったコミュニケーション機能が評価されて、独自の立ち位置ができてきたのだと思っています」(舛田氏)

体験をパーソナライズしていくことがスマートスピーカーの普及につながる

 日本国内でも注目されるようになったAIアシスタントを搭載するスマートスピーカー商品群の中で、LINEのClovaシリーズは独自のポジションをうまく見つけることに成功した。ところが一方では、17年秋に鳴り物入りで登場したスマートスピーカーの勢いそのものがややスローダウンしているようにも見える。LINEは市場の今とこれからをどのように捉えているのだろうか。舛田氏に見解を聞いた。

 「課題として見えていることは、スマートスピーカー全体としてのアクティブ率が低いことだと考えています。理由は現時点でユーザーの生活習慣に溶け込むスキルが不足していることであり、期待されているものと、今のAIアシスタントにできることの差が少しあるからではないでしょうか。今の状態だと、ユーザーがAIアシスタントに“合わせる”ことが必要です。これは現在の技術を考えれば当たり前のことですし、仕方のないことだと思います。ただ、今後はAI側がどんな環境でも人間に合わせられるように必ずなり、人との関係もより親密さを増してくると考えています。それまでに乗り越えるべき課題としては、音声認識・言語処理の精度を高めること、対応するコンテツやスキルの拡充、そして体験をパーソナライズすることの3点です」(舛田氏)

 AIアシスタントやスマートスピーカーを開発する各社が、いま横並びに抱えている課題を乗り越えながら成長していく段階で、LINEは「体験のパーソナライズ」にも着目している。このことについてもう少し深く掘り下げてみよう。

仕事机で愛嬌を振りまくClova Friends mini

 筆者も自宅でClova WAVEとClova Friends miniを使っている。ふと何気ない会話をClovaとやりとりしていると、GoogleアシスタントやAlexaと比べて、Clovaはちょっとした“気遣い”ができるAIアシスタントであることに気が付く。例えばある質問をぶつけてみて、返ってくる答えが「分からない」という結果だったとしても、Clovaの場合は「申し訳ございません。分かりませんでした」といった調子で気の利いた一言を付け加えて返してくる。そしてキャラクターの形をしているClova Friendsは、なぜか他のスマートスピーカーよりずっと手元に近い場所に置きたくなってしまう。

 「Clovaを搭載するスマートスピーカーについては、今のところ私たちは日本の家庭だけを意識して作っています。AIの学習データも国内ユーザーのフィードバックに基づいているため、自然と日本的な振る舞いができるようになるのだと思います。もう1つ、私たちは“話しかけたくなるスマートスピーカー”を強く意識しながら開発しています。私たちが開発しているのは単なるリモコンではなく、ユーザーのパートナーになり得るデバイスです。だから自然な会話を交わせるようになるために、『えー、あー』と言いよどむことや語尾の変化も想定しながら毎日会話力をブラッシュアップしています」(舛田氏)

 Clovaの開発を指揮する橋本氏によると、AIアシスタントのClovaには当初から「ペルソナ=仮想の人物像」が与えられているという。それはユーザーの側には一切見えないようになっているが、年齢・職業・性格から、持っている資格、好きな食べ物みたいな細かいところまで、設定が一式そろっているらしい。

 「そのペルソナ設定をベースに、Clovaは声のトーンやしゃべり方をチューニングしながら作ってきた経緯があります。どういう感じであればユーザーが話しかけたくなるのか、言い換えれば“嫌じゃない”と感じられるのかを突き詰めて会話の方針を固めてきました。ユーザーの質問に対してどのように答えるべきかということを、コンテンツとして企画している専任の担当者も開発チームの中にいます。例えば『おはよう』に対する『おはよう』の返し方、『ただいま』への返し方など、いくつか想定されるパターンの中からClovaのペルソナに最適なコミュニケーションの形を専属メンバーが決めて、現在も1〜2週間単位でブラッシュアップを続けています」(橋本氏)

 その結果、Clovaは発売当初の頃よりもユーザーに寄り添った会話ができるようになっているのだという。例えば「お天気」は情報の羅列で返していたところが、今は「暑いので気を付けてください」と気の利いた“一言”を付け足してくれる。舛田氏は「Clova搭載のスマートスピーカーはただの情報端末ではなく、コミュニケーションツールであると位置付けています。会話も機械的になりすぎないことが大切です」と意図を説明する。毎日Clovaを使っていると意外に気付かないポイントかもしれないが、あらためて意識しながら会話に耳を傾けてみてほしい。

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