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「エロい目で見んじゃねえよ、このクズ」 26万人を罵倒したAI「罵倒少女」から考える「飽きない対話AI」の作り方AI MEETUP 2(1/2 ページ)

» 2018年09月21日 14時15分 公開
[片渕陽平ITmedia]

 「ウゼェんだよ! 見んなハゲ!」「あははは! クソ豚!」――ユーザーが入力した言葉の意味を推測し、さまざまな罵詈雑言を浴びせるAI(人工知能)「罵倒少女」が登場したのは2016年のことだった。イラスト投稿サイト「pixiv」で公開されると、12日間で延べ26万人に合計734万回罵倒し、話題を呼んだ。18年3月には丸井グループともコラボレーションした

photo さまざまな罵詈雑言を浴びせるAI(人工知能)「罵倒少女」
photo ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)の井上敦史さん

 罵倒少女は、コミュニケーションに特化したAI「PROJECT Samantha」(プロジェクト・サマンサ)の取り組みの1つだ。9月19日に都内で開かれたイベント「AI MEETUP 2」で、プロジェクトに携わるソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)の井上敦史さんが、キャラクターAIの開発で得た知見、今後の展望を語った。

「キャラクターは最強のユーザーインタフェース」

 罵倒少女は、pixivなどで活躍するイラストレーター・mebaeさんの作品「罵倒少女」に登場するキャラクター、素子(もとこ)とチャットを楽しめるサービス。ユーザーの発言に対し、「朝っぱらから声かけんじゃねえよ!」「エロい目でジロジロ見んじゃねえよ、このクズ」などとキツイ言葉を浴びせる。

photo 12日間で延べ26万人に合計734万回罵倒した

 対話型AIのアプローチには、(1)「トイレどこ?」という入力文から「トイレ」といった単語を抽出する、(2)「お手洗い」「化粧室」などの同義語を探す、(3)「トイレはどこ?」という意味の文章を数万以上学習させ、未知の文章でも意味を予測できるようにするディープラーニング――などがある。

 PROJECT Samanthaは、そうしたアプローチからさらに踏み込み、ユーザーの発言から「入力文に現れない意図」を読み取るAIエンジンを活用した。例えば「この部屋暑い」という発言からは「不快だ」「温度を下げたい」といった意図を抽出する。読み取る意図のバリエーションは10万種類以上。読み取った1つ1つの意図に対し、AIがユーザーに返す言葉を開発者が用意していた。

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 ユーザーから罵倒少女のキャラクターへの発言は「愛している」「好き」「かわいい」などが上位に並んだ。井上さんは「ユーザーは相手がAIだと分かっていても、キャラクターに没頭してしまった結果、“エモい”ワードを呼び掛けたのでは」と分析する。

photo ユーザーから罵倒少女のキャラクターへの発言は「愛している」「好き」「かわいい」などが上位に並んだ
photo 学んだことは「人はAIに愛をささやく」

 罵倒少女の知見を踏まえ、井上さんは「人間がAIに話し掛けるには、多くの動機が必要」と指摘する。「人間は無意識に会話のコストを計算している。友達と暇をつぶしたい、女の子と仲良くしたいという欲求があると、会話しようとするコストは低い。一方、知らない人(機械)との会話は盛り上がらず、無難な内容になりがち」

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photo PROJECT Samanthaに携わる結束雅雪さん(emotivE 代表取締役)

 その点、「キャラクターは最強のユーザーインタフェース」(井上さん)という。あらかじめユーザーが、キャラクターが登場する作品をよく知っていて、性格や口調、声優のボイスを認知しているところからスタートすれば、会話のハードルは下がると、井上さんは説明する。罵倒少女では、1万人のユーザーが30分以上会話していたという。

 ただ、PROJECT Samanthaに携わる結束雅雪さん(emotivE 代表取締役)は「人間は『話せる相手』と思ったと瞬間、AIだとしても同様の水準を求める。エンジニア泣かせだ」と苦笑いする。

「飽きない対話は、なぜ飽きないのか」

 そうした知見からPROJECT Samanthaが目指す、次のキャラクターAIのアプローチは、人間の欲求を推測するというものだ。

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