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人工知能を“正しく”疑え データサイエンティストがNHK「AIに聞いてみた」の違和感を探る(2/3 ページ)

» 2018年10月19日 07時00分 公開
[松本健太郎ITmedia]

 そこで番組と同じように、都道府県別の人口10万人当たりの図書館数(人口は平成27年度国勢調査、図書館数は平成27年度社会教育調査)と、男女別健康寿命(参照:厚生労働科学研究。データは番組と同じく「日常生活に制限のない期間の平均」を参照)の散布図を作成しました。結果は以下の通りです。

NHK 筆者作成。縦軸は図書館数、横軸は性別健康寿命(関連リンク

 図書館数と男性健康寿命の相関係数は0.01で、女性健康寿命とは0.20でした。相関係数は−1〜+1の間に収まり、「0〜±0.2はほとんど相関なし」「±0.2〜±0.4は弱い相関あり」「±0.4〜±0.7はやや相関あり」「±0.7〜±1は強い相関あり」とされています。上記のケースは「相関」ですらなく、単なる偶然ではないでしょうか。

 ちなみに、都道府県別の公立小学校における学校司書設置学校数割合(平成28年度「学校図書館の現状に関する調査」結果について)と都道府県別の男女別健康寿命の散布図も作成しました。結果は以下の通りです。

NHK 縦軸は学校司書配置率、横軸は性別健康寿命(関連リンク

 学校司書配置率と男性健康寿命の相関係数は0.32、女性健康寿命とは0.37でした。弱い相関がある程度ですね。

 図書館に行く頻度だけが、読書に関係するとは限りません。私の場合、図書館は利用せずkindleで電子書籍を年間100冊ほど読むからです。そこで読書習慣や書籍の購入費とも照らし合わせてみます。

 平成28年社会生活基本調査において、有業者で「趣味としての読書」を行っている男女別標本の割合と、男女別健康寿命の散布図を作成しました。結果は以下の通りです。

NHK 縦軸は「趣味としての読者」行為率、横軸は性別健康寿命(関連リンク

 男性読書行為者率と男性健康寿命の相関係数は0.24ですが、女性読書行為者率と女性健康寿命の相関係数は-0.30でした。ちなみに男女ともに行為者率の1位は東京都(男性45.3%、女性55.0%)、山梨県は男性19位(31.0%)、女性28位(45.7%)でした。

 また、2015年版家計調査(都道府県庁所在市別)にて「1世帯当たり1カ月間の収入と支出」で「書籍・他の印刷物」にかかる費用と、男女別健康寿命の相関係数はそれぞれ0.12、0.03でした。ちなみにかける費用が多い県の男性1位は奈良県(4242円)、女性1位は茨城県(4803円)、山梨県は男性26位(3194円)、女性16位(3326円)でした。

 読書と山梨県と健康寿命に相関があるとするのは、ちょっと無理筋ではないでしょうか。

 もちろん、これらの結果だけで「読書と健康は関係ない!」と言うつもりはありません。ただ、現時点の数字が直接的に健康寿命に影響するとは思えません。もっと長期的な、20年〜30年間の時系列データによる判断が必要でしょう。

 しかし、番組スタッフが山梨県に取材へ行き、「読書習慣が健康寿命を延ばしたのでは?」とするのは、これらのデータをもとに否定されるべきかと思います。

 もう一つ指摘するとすれば、10年以上の追跡調査結果があるのですから「本や雑誌を読む」にイエスと答えなくなった人の健康状態に変化があったのか、因果推論を導き出すことはできたはずです。健康・不健康ネットワークにこだわって分析しなかったのだとしたら、誠意に欠けるといえないでしょうか。

「PPK」と「犯罪件数」は関係あるのか?

 同じく追跡調査の結果を読み解いた結果、AIひろしは健康な状態を長く保って死を迎える「ピンピンコロリ(PPK)ルート」と、長い不健康な期間を経て亡くなる「ネンネンコロリ(NNK)ルート」が分かるPPK・NNKダイアグラムを作成し「ピンピンコロリには泥棒を捕まえろ!?」と提言しました。

AI PPK・NNKダイアグラム(「AIに聞いてみた どうすんのよ!? ニッポン」公式サイトより)

 Webサイトの説明によれば、ダイアグラムは「時系列の回答とその後の生存記録に着目」し、「死の直前の状態、その3年前の状態、さらに3年前の状態という具合に探索」したものだそうです。

 つまり、人生最後の約10年を通して不健康なまま亡くなった人(NNK)は何と回答する傾向にあったのか分かれば、それらを改善することでPPKになる可能性を秘めているということのようです。

 ダイアグラムを読み解くと、「地域の治安が悪化」は青い要素で、そこから約10年間不健康のままNNKするようです。治安と健康寿命は関係があるのか。

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