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メディアを通さなくてもいい――「メディアスキップ」の時代のお仕事(2/3 ページ)

» 2018年11月27日 11時44分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

「直接」からすべては始まった

 今の人々は忙しい。興味のないことまで調べたり読んだりする時間はない……。そう思う人が多いだろう。

 一方で、自分が興味を持っているものについては、より速く、より詳しい情報を得られるなら、時間を使う人も増えている。企業やアーティストによるストリーミング配信の増加は、そうした傾向を受けてのものだ。もちろん、コスト的にリーズナブルになった、という点はあるのだが。

 メディアを介した伝播は、より広く、多くの人に伝えやすいという特徴がある一方で、本来企業が伝えないものから軸や像がブレる。「直接」届けることは、企業にとっては望ましいことなのだ。

 「直接」という言葉で気がついた方もいると思うが、こうしたやり方は、任天堂の故・岩田聡社長が「ニンテンドー・ダイレクト」として始めたものが、業界的にも最初期の存在である。ほかの企業でもやっていたことではあるのだが、プレスカンファレンスに配信を絡め、「一番情報を持っているのはプレスではなく、配信を見ていたファンである」という構造を作り上げたのは、筆者が知る限り、任天堂が初めてだったように思う。2012年E3の、任天堂のプレスカンファレンスがまさにこうした形だったのだ。ちなみにこのカンファレンスは、任天堂として「E3でプレスを招いたイベントとして」開催された、最後のものでもある。

photo 任天堂の岩田聡社長による「社長が訊く」第1回

 いまや、テックイベントはもちろん、映画の発表披露なども配信されるようになり、それを「見る」方が、事実をそのまま書くだけなら効率的なものになっている。

 メディアに求められるのが「サマリー」ならば、消費者と同じ立場で見聞きして、そこから記事化するのがベスト、ということになる。

 「だから、現地に行くよりストリーミングの方が仕事がしやすいんですよ」

 そういう同業者がいる。

 だが、筆者としては、その声に首を傾げさるを得ない。

 我々が書くのは、「サマリー」ではないからだ。

 この辺、筆者の記事を読んでお気づきの方は、どのくらいいるだろうか。数年前まで、「発表会詳報」を伝える時、筆者も、発表会で起きたことを、できるだけそのまま伝えるようにしていた。

 だが、今はそのやり方は捨てている。発表会のサマリーではなく、その場でなにが起きたのか、それを見たときにどう感じたのか、それが記者の書くことではないか。そう考え、解説のやり方を変えている。

 現地に行かなければ、写真やメモの仕事から解放され、ウェブで情報を見ながら分析できるから、というのも、ちょっと違うと思う。「現地にいるから得られる感覚」はやっぱりあって、それは決して無意味なものではない。だから、記者は発表会に足を運ぶのだ。「どっちを選んでもいい」が正解。むしろ、現地に行く人が限られている分、情報としての価値は「行った人」のものの方がレアだ。

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