犬型ロボット「aibo」は、長期入院中の子どもを癒やせるか――ソニーと国立成育医療研究センターが11月29日、そんな検証を12月に始めると発表した。同センターに入院している子どもに、1日当たり20〜30分ほどaiboと触れ合ってもらい、ホルモンの分泌、発言や行動への影響を確認する。新型aiboを使った同様の取り組みは、今回が初めて。
「入院していると痛いことばかり。パパやママにも会えない」「簡単に頑張れって言わないで。これ以上、何を頑張ればいいの」「今までできていたことがどんどんできなくなっていく。もう死んだほうがマシ」――これらは、同センターの田中恭子さん(こころの診療部 児童・思春期リエゾン診療科診療部長)が、実際に入院中の子どもたちから聞いた“悲鳴”だ。
慢性疾病で長期入院している子どもは、寂しさや混乱などから抑うつ症状、不安などを抱えるケースが多く、退院後に15〜20%がPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症するという。そうした子どもの心をケアする方法には、犬などの動物との触れ合いが効果的とされるが、感染症のリスク、訓練にかかるコストなどもあり、「導入を見送ってきた」(同センター)。
同センターが今年4月、ソニーの犬型ロボット「aibo」を導入したところ、遊んだ子どもたちからポジティブな反応が多く、より本格的な検証に踏み切る。
12月からの検証では、数台のaiboを導入。(1)採血など痛みを伴う医療処置の際、aiboによるディストラクション(気晴らし)効果を検証、(2)長期療養中の子どもが家族と一緒に触れ合う集団介在療法、(3)骨髄移植などのため病室を隔離された子どもに対する個別介在療法――などに活用する。こうしたケースを100例ほど2020年3月まで試す。
その際、aiboと触れ合う前後で、唾液などに含まれる「オキシトシン」(愛情ホルモン)などの増減を検証する。また、子どもがaiboに対し、どのような発言・行動をしているかを研究者が評価。これらに家族関係や合併症の有無なども含め、生物学的指標、心理学的指標、社会学的指標という3つ視点で、癒やしの効果を測るという。
またaiboが搭載するタッチセンサー、顔認識用のカメラなどを使い、子どもがaiboに愛着を抱くまでのプロセスを観察し、対人コミュニケーションを促す。具体的には、aiboとのアイコンタクトや、なでる、たたく、触るなどの種類、回数を分析する。
研究用のaiboは、ソニーが特別仕様の機体を用意。被験者の顔写真など個人を特定可能なデータは、同センター内でのみ管理し、クラウド上への保存やソニー側での管理は行わない。aiboの通信機能(電波利用)も必要に応じ制限する。
田中さんによれば、長期入院中に抱える不安や抑うつによって、子どもが家族とコミュニケーションをうまく取れなくなるケースもあるという。「aiboを介することで、不安や抑うつの減少だけでなく、人とのきずなを結ぼうとする意欲の回復にもつながることを期待したい」(田中さん)
ソニー AIロボティクスビジネスグループの矢部雄平さん(事業企画管理部統括部長)は「aiboの発売前の段階では、こうした医療現場での活用は考慮していなかった。(同センター側から)『絶対に効果がある』と力説されたが、半信半疑だった」と明かす。しかし、同センターが事前に行った調査結果や、aiboを購入したユーザーからのコメントを見るうちに「社会貢献につながるだろうと感じた」(矢部さん)
今回の検証について、矢部さんは「(癒やし効果を)定量評価できることは意義がある。その上で、少しでもaiboが子どもにプラスの効果を提供できればうれしい」と期待を寄せている。
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